本申請課題は、結核菌に対して抗菌作用を示す海綿由来物質Agelasine Dの標的タンパク質であるBCG3185cに対し、昨年度までに単結晶の作製に成功し、構造解析に至ることに成功していた。一方、Agelasine Dが抗菌作用を示す作用メカニズムを明らかにする目的でAgelasine DとBCG3185cとの共結晶化を試みてきたものの、結晶を得ることは困難であった。今年度については、難水溶性であるAgelasine D存在下で共結晶が得られる条件を種々検討したものの、やはり結晶化には至らなかったため、先にBCG3185cの単結晶を調製し、そこにAgelasine Dを有機溶媒に溶かして添加など、様々な手法を検討したものの、共結晶を得ることは困難であった。 そこで、昨年度に行ったドッキングシミュレーションの結果を踏まえ、複素環を有するAgelasine Dの結合に影響を及ぼし得る2カ所の芳香族アミノ酸に着目し、まずは各々をアラニンに置換した二種の変異体を作製することとした。変異導入ベクターの調製には成功したが、研究期間を終えたため、変異体発現用の結核菌株の作製および評価という段階までは至っていない。 一方で、研究協力者である大阪大学の荒井教授らが、Halicyclamine Aの標的タンパク質として新たにBCG2664のクローニングに成功したため、本研究課題である「新規抗結核薬の創製」の観点から、もう一人の研究協力者である蛋白質研究所の竹下助教らに本タンパク質の単離精製を新たに依頼し、その高純度での獲得に成功した。そこで、BCG3185cのみでなく、BCG2664についても検討することで、作用点を2つ持つ新規抗結核薬の創製へと課題を拡大展開することに成功した。
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