研究課題/領域番号 |
15K07910
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
岸本 泰司 徳島文理大学, 薬学部, 教授 (90441592)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 瞬目反射条件づけ / 睡眠 / 覚醒状態 / 記憶学習 / サル / 遺伝子改変マウス |
研究実績の概要 |
本研究は、瞬目反射条件付けを行動指標として、サル、ヒト、マウスの学習の獲得および発現に対する「覚醒あるいは意識状態」の役割、寄与を定量的に明らかにすることを大きな目的とするものである。今年度においては、サルとマウスそれぞれの動物種の利点を生かし、意識状態が学習に対する与える影響について、個体の行動レベルにおける現象の詳細な観察、検討を行った。まず、サルの行動実験においては、通常覚醒状態で認知試験を行うものであるが、本実験では条件づけ実験中、しばしばまどろむことがあっても、あえてサルを起こさずにそのまま実験を続行した。その結果、サルは明らかにうとうととしている状態(目を閉じている状態)であっても、CSが与えられると瞼がぴくりと動く現象(CR)が頻繁に生じることに気づいた。そこで、さらにCSを与える直前にサルが目を閉じていたか否かで、CRの発現率に変化があるかどうかについての生データを詳細に解析した。結果として、瞼を閉じていても完全に瞼が開いていても、学習が再現する頻度には全く違いがないことが明らかとなった。この結果は、覚醒レベルにかかわらず潜在学習が発現されることを示すものと示唆され、顕在記憶と潜在記憶を分ける意識の境界線がアウェアネスの有無にあるという従来の定説に、ある意味再考を促すものとなった。つぎに、マウスで同様の実験を行い、学習の表出と瞼の開閉状態との関係を解析した。その結果、マウスでは、CS前に瞼を閉じていると、閉じていない場合に比べて、(筋電位によって判定される)CRが出現する確率が小さくなることが明らかとなった。人間による予備的な実験でも、覚醒レベルが落ちている場合、CRの出現率は小さくなることも観察している。これらの実験より、瞬目反射条件づけ記憶の覚醒レベルによる発現には種差が大きいことも示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までに、サル、マウス、人間における瞬目反射条件づけのシステムを開発し、さらにこれに睡眠•覚醒レベルを定量的に計測する方法論も確立した。これらの系を組み合わせることにより、睡眠状態と学習発現との関連の解析を次年度以降に順調に行える予定である。既に一部の成果は、学術雑誌に報告済み(Kishimoto et al., 2015)であり、この実験成果は新聞紙面でも紹介された。(睡眠学習も夢じゃない!? 読売新聞(31面) 2015年9月8日; 研究の現場から サル睡眠中も条件反射解明毎日新聞(27面) 2015年7月7日)。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、今年度までに得られたナイーブ動物における覚醒状態と学習との関係をより精査するとともに、遺伝しか異変マウスや脳損傷モデルマウスなどでも同様の調査を進める。意識のメカニズムの解明はそれ自体、現代科学が取り組むべき非常に野心的なテーマである。遺伝子操作マウスを用いた記憶学習の行動遺伝学的研究はこの数十年で大きく飛躍したが、これで得られた知見は学習に必要な機能分子やシナプス基盤に留まっていた。本課題で得られた結果は、こうした過去の研究で得られた知見と組み合わせることで、より高次の意味で記憶学習のメカニズムの理解が進むことを期待するものである。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初当該年度では、薬理学実験をある程度進める想定であったが、基礎的なデータを取得することを優先したために試薬の購入をほぼ行わなかったことに起因するものである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については、これを各種試薬の購入にあてる予定である。
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