研究実績の概要 |
学習の獲得および発現に対する「覚醒/意識状態」の役割を明らかにすることを目的とし、本年度は主に実験動物としてマウスを用いて実験を遂行した。マウスでは瞬目反射条件づけの痕跡課題においては覚醒状態と運動学習獲得に明瞭な相関関係があることが明らかとなった。さらに遅延課題(条件反射)の発現でさえ覚醒状態にある程度正の相関(相関係数0.52)を持つことがわかった。これはサルでの結果と異なるものである(Plos One 2015)。次に、各種モデル動物をこの実験系に適応することにより、脳神経疾患を克服する治療戦略の開発に繋げる方法論の開発を試みた。ある種のアルツハイマー病モデル(Tg)マウスでは、瞬目反射条件づけの遅延課題では学習が正常であるのに対し痕跡課題では著明な学習障害が起るが、この現象と並行して、Tgマウスでは野生型に比べ条件づけチャンバー条件下で覚醒状態が低い時間が有意に長いことが示唆された。引き続き例数を増やすとともに、Tgマウスにおける覚醒状態と条件反応表出との間の相関関係を詳細に確認する予定である。なお、各種モデル動物の解析を進めるにおいて、特にMDGA1/2欠損マウスの解析の途上で大きな進展を見た (MDGA1/2はneuroliginsとの結合を介してシナプスの形成に関与しており、神経回路の興奮と抑制のバランスの制御に重要なタンパク質である。我々はこの欠損マウスで著明な学習障害が起ることを示した。Neuron 2016, Cell Reports 2017)。そこで、これらのマウスにおける学習メカニズムの解析、学習障害を回復させる薬物の探索にも注力した。シナプス興奮性/抑制性を制御する薬(バクロフェン, D-サイクロセリン等) が、有意に学習能力を回復させることを明らかにした。
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