腎不全は尿毒症物質が体内に蓄積して多彩な病態が形成される疾患である。すなわち、尿毒症物質の体内への蓄積を抑制し、体外へ排泄することができれば、腎不全亢進の抑制につながる。現在、経口吸着炭素製剤であるクレメジンが慢性腎不全の進行抑制の目的で保険適用されている。本研究では炭素材料であるC60を親水性ナノ粒子化し、腎不全進行に対する抑制効果を検討した。 親水性C60ナノ粒子はC60と2-ヒドロキシプロピル-β-CD の粉末を減圧下、4℃で3時間混合粉砕することで調製した。腎不全進行に対する抑制効果は、慢性腎不全モデルとして腎臓5/6摘出ラットを用い、C60ナノ粒子を毎日経口投与し(C60=1 mg/day)、4週間後、8週間後に血中クレアチニン(Cr)、尿素窒素(BUN)、無機リン(P)濃度を測定し、腎臓組織切片のPAS染色、MT染色および8-OHdG染色結果より評価した。また、C60 ナノ粒子と代表的な尿毒症原因物質であるインドールの相互作用をUV、蛍光、NMRスペクトル測定より検討した。さらに、各種尿毒症物質に対する吸着等温線を作成し、Langmuir式より最大吸着量を算出した。 腎臓5/6摘出ラットにC60ナノ粒子を経口投与すると、Cr、BUN、P値の上昇は8週間後においても僅かであった(非投与群:Cr 0.81→1.39、BUN 64.9→126.8、P 6.4→8.9 C60投与群:Cr 0.67→0.81、BUN 57.2→64.6、P 6.7→7.4)。腎臓組織切片の染色結果からも腎不全進行抑制効果が示された。各種スペクトル測定および吸着実験より、C60 ナノ粒子は各種尿毒症物質と強く相互作用し吸着することが示された。C60ナノ粒子はインドール等の尿毒症原因物質を消化管で吸着し、体外へ排泄することで、腎不全の進行を抑制したものと推察された。
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