研究課題/領域番号 |
15K07916
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研究機関 | 国立医薬品食品衛生研究所 |
研究代表者 |
橋井 則貴 国立医薬品食品衛生研究所, 生物薬品部, 室長 (20425672)
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研究分担者 |
鈴木 琢雄 国立医薬品食品衛生研究所, その他部局等, 研究員 (10415466)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | HDX/MS / 水素重水素交換 / 質量分析 / 糖タンパク質 / 糖鎖 / 相互作用解析 |
研究実績の概要 |
糖タンパク質糖鎖の機能を理解するためには,糖鎖とリガンド分子の相互作用機序を分子レベルで解明することが重要であるが,従来の構造解析手法では,高濃度の試料溶液を調製する必要があるなど技術的な課題が残されている.これまでに我々は,タンパク質の揺らぎ解析技術の一つとして知られている水素重水素交換/質量分析法 (HDX/MS) により,タンパク質間の相互作用解析をペプチドレベルで行ってきた.本研究では,HDX/MSを用いた糖タンパク質-糖鎖複合体の相互作用解析技術を開発する一環として,ヒトアンチトロンビン (AT),及びATを認識するヘパリン5糖をモデルとして,HDX/MSの応用可能性を評価した. ヘパリン5糖を添加したAT及びコントロール (ATのみ) のHDX/MS解析を行い,ATのペプチドごとの重水素交換数を比較した.その結果,ヘパリン5糖を添加すると,へリックスA (hA) 及びへリックスD (hD) 領域の重水素交換数が減少することが明らかとなった (ヘパリン5糖結合部位).一方,へリックスB (hB),ストランド3A (s3A),及び近位ヒンジ領域の重水素交換数は増加した. 以前に,ヘパリン5糖のAT結合部位がhA及びhD領域の塩基性アミノ酸残基であることが報告されている.また,hB,s3A及び近位ヒンジ領域は,トロンビン結合部位の露出に関連した動的構造変化が生じる領域であることが示唆されている.本研究で重水素交換数に変化がみられた領域はそれらの報告と良く一致しており,HDX/MSは糖タンパク質-糖鎖複合体の相互作用解析として有用であることが実証された.さらに本研究では,表面プラズモン共鳴法(SPR)を利用した,ヘパリン等のグリコサミノグリカンと糖タンパク質の解離定数評価手法についても最適化を開始している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,AT及びヘパリン5糖をモデルとして,これまでに検討してきたHDX/MSが,糖タンパク質-糖鎖複合体解析技術として応用可能性であることを実証した.また,糖タンパク質-糖鎖複合体の解離定数評価手法の最適化も開始している.当初の研究計画どおり目標を達成しており,おおむね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
本年度に見出したATのヘパリン5糖との結合部位,及び動的構造変化が見られた領域について,アミノ酸残基レベルでの解析を実現するために,現在,電子移動解離 (ETD) 法を用いた質量分析手法の最適化についても検討を開始しており,今後はHDX/MS-ETD手法により,高解像度のAT-ヘパリン5糖複合体解析を行う予定である.また,SPR法の最適化を継続するとともに,平成28年度以降計画している糖タンパク質及び糖鎖試料の調製を開始する.構成糖及び鎖長の異なる糖鎖について,SPR法により標的糖タンパク質との相互作用解析を行い,解離定数等を指標として,結合性糖鎖を特定する.さらに,本年度,応用可能性を確認したHDX/MSにより,標的糖タンパク質―糖鎖の相互作用解析を行い,糖鎖ごとの結合部位を明らかにする予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
H27年度は順調に研究が進み,当初予定したよりも使用額を低く抑えることができたこと,一方で,H28年度以降に予定している試料調製及び分析等に使用する必要があった為,当該繰越金が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
H27年度の繰越金については,糖タンパク質試料及び糖鎖試料の調製,並びに機器分析に必要な物品の購入費として使用する予定である. 繰越金+H28年度研究費:物品費;1240,676円,旅費:300,000円(調査・研究旅費,研究打ち合わせ旅費,成果発表旅費),人件費・謝金:20,000円(研究補助),その他:30,000円を予定している.
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