研究課題/領域番号 |
15K07922
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
山口 直人 千葉大学, 大学院薬学研究院, 教授 (00166620)
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研究分担者 |
山口 憲孝 千葉大学, 大学院薬学研究院, 助教 (80399469)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | チロシンリン酸化 / 核内シグナル / DNA結合蛋白質 / 転写因子 / Src / Abl / Ku70 / FoxA1 |
研究実績の概要 |
蛋白質チロシンリン酸化は、増殖・分化・形態変化・運動・代謝機能などに関わり、その異常はがん・動脈硬化・自己免疫疾患・糖尿病などの疾患の原因となっている。私達はこれ迄に、Src型チロシンキナーゼを含む主要な非受容体型チロシンリン酸化酵素は細胞質のみならず、核内にも存在することを見出してきた。本研究では、Src型チロシンキナーゼとc-Ablチロシンキナーゼの基質候補分子を質量分析の手法を用いて探索しチロシンリン酸化の機能を解析してきた。 本年度は申請者らの独自の基質探索研究によって幾つかの候補分子の研究を進めている中で、DNA修復蛋白質Ku70はKu80とヘテロ2量体を形成して非相同末端結合によるDNA 2本鎖切断を修復することが知られている。しかし、本研究でKu70がチロシンリン酸化されることを初めて見出したが、チロシンリン酸化はDNA2本鎖切断修復機能には関与しないことが明らかになった。驚くべきことに、Ku70のアポトーシス抑制作用に対して、SrcがKu70の530番目のチロシン残基をリン酸化すると、Ku70のアセチル化が抑制されてアポトーシス抑制が亢進することを見出した。従って、SrcによるKu70のチロシンリン酸化は、DNA傷害に対するアポトーシス感受性を低下させ、DNA修復の時間を確保する大切な機能を担っていることが示された。また、本年度、転写因子FoxA1がc-AblによりC末端のチロシン429番目と464番目がリン酸化されることを初めて見出し、チロシンリン酸化FoxA1がヒストンH3への結合を促進しエストローゲンによる細胞増殖を誘導することが明らかとなり、パイオニア転写因子としての機能にチロシンリン酸化の重要性が示された。以上、核内蛋白質にチロシンリン酸化が起こること、そして、チロシンリン酸化がアポトーシスや細胞増殖に重要な機能を示すことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Srcの新規基質として見出したKu70の抗アポトーシス機能に対してチロシンリン酸化が促進作用を持つという興味深い成果が得られ、細胞がDNA損傷に対して抵抗性を持つためにはSrcのチロシンリン酸化活性が必要であるという重要な知見が得られた。そして、転写因子FoxA1がチロシンリン酸化によって機能制御を受けることも判明した。しかしながら、当初に計画していたErbB4の細胞質領域4ICDによるヒストンH3の9番目のリジンのトリメチル化を介するヘテロクロマチン化の研究はあまり進捗が見られないのがやや残念である。ただ、様々な基質候補分子のチロシンリン酸化による機能制御の研究は現在順調に進行しているところである。以上を合わせて勘案すると、概ね順調に進展していると考えて良いであろう。
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今後の研究の推進方策 |
申請者らが見出してきた核内チロシンリンリン酸化シグナルに関して、本研究により、ようやく基質とチロシンリン酸化部位の同定と機能制御が明らかになってきた。今後、Transforming growth factor-betaや他のシグナルによる核内チロシンリン酸化シグナルの解明を進めてゆきたい。また、分裂期におけるチロシンリン酸化シグナル伝達系を見出してゆきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
該当年度の研究はコストパフォーマンスが良かったので、次年度に向けて研究費の一部を繰り越すことができた。次年度は最終年度になるので、繰越金を使用して一層の研究の進展を図る。
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次年度使用額の使用計画 |
繰越金は全て物品費として使用する予定である。
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