α-シヌクレイン(ASN)はパーキンソン病などの神経変性疾患の原因タンパク質であると考えられている。ASNは神経細胞内に蓄積してレビー小体と呼ばれる凝集体を形成するが、細胞外にも存在していることがしられており、この細胞外ASNの生理的・病理的意義は不明である。申請者らは細胞外 ASN の作用について検討する中で、スフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体と3量体型 G タンパク質の共役が ASN により抑制される(アンカップリング) という極めて興味深い現象を見いだした。 最終年度においては、この細胞外ASNの作用の特異性について検討を行い,S1P1受容体とGi蛋白質の共役が細胞外ASNで強く抑制されるのに対し、S1P2受容体とG12/13蛋白質の間の共役は影響を受けないことを示した。多くの受容体は細胞膜上でラフトと呼ばれるスフィンゴ脂質やコレステロールに富んだ領域に集中していることが知られている。神経細胞SH-SY5Y細胞を用いてS1P1受容体とS1P2受容体の局在について検討を行ったところ、両者ともにラフト領域に局在していることが確認された。そして細胞外ASNで細胞を処理することで、S1P1受容体の局在はラフト領域からラフト外へと移動した。S1P2受容体についてはこのような局在の変化は認められなかった。 細胞膜における受容体のラフト領域への局在は、その情報伝達において重要であると考えられている。今回の発見は、神経伝達物質放出において重要な機能を担っているS1P1受容体の局在が細胞外ASNにより変化し、その結果G蛋白質との共役が阻害されている可能性を示唆するものである。
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