研究課題
(1) H1R遺伝子発現抑制化合物のHsp90阻害機序の解明Hsp90阻害薬のゲルダナマイシンは、Hsp90のATP結合部位に結合することで、Hsp90を阻害する。 (-)マーキアインはHsp90とゲルダナマイシンの結合に対し競合したが、そのIC50値(IC50 = 11 μM)はATP結合部位に結合することが知られている別のHsp90阻害薬の17-AAGのIC50値(IC50 = 0.64 μM)よりも17倍大きかった。このことから、(-)マーキアインがHsp90のATP結合部位ではなく、その近傍に結合することが明らかとなった。また、(-)マーキアインはHsp90のATPアーゼ活性を阻害しなかった。以上の結果から、(-)マーキアインはゲルダナマイシンや17AAGとは異なる結合様式でHsp90に結合し、PKCδとHsp90との相互作用を阻害することが明らかとなった。(2) Hsp90を標的とする天然物由来H1R遺伝子発現抑制化合物のステロイドシグナルへの影響ステロイド受容体(GRα)は刺激のない状態ではHsp90と結合して細胞質に安定に存在する。この結合をHsp90阻害薬の17-AAGにより阻害するとGRαは分解される。しかし、(-)マーキアイン処理によりHsp90は分解されなかった。また、ステロイド刺激に伴い、GRα/ステロイド複合体は核内へ移行するが、(-)マーキアインは、GRαの核内移行を抑制しなかった。さらに、GREを組み込んだレポータープラスミドをHeLa細胞にトランスフェクションし、デキサメタゾン刺激に伴うルシフェラーゼ活性上昇への(-)マーキアインの影響を検討した結果、(-)マーキアインはGRαの転写活性を促進することが明らかとなった。
1: 当初の計画以上に進展している
(-)マーキアインはHsp90とPKCδの相互作用を阻害する。このことから、(-)マーキアインはHsp90とGRαとの結合を阻害することが予想され、(-)マーキアイン処理により、ステロイドシグナルが抑制されると言う仮説を立てていた。しかし、本年度の成果により、(-)マーキアインがGRαの転写活性を促進し、ステロイドシグナルを活性化することを見出した。ステロイドは、様々なアレルギー疾患の治療に用いられているが、その副作用が問題となっている。(-)マーキアインがステロイドの効果を増強することから、(-)マーキアインとステロイドを併用することで、ステロイド投与量を減少でき、より副作用の少ない治療薬の開発につながるものであると考えた。
本年度の成果により(-)マーキアインとHsp90との結合様式が既存Hsp90阻害薬と異なることが明らかとなった。また、(-)マーキアインはHsp90とPKCδとの結合を阻害するが、Hsp90とGRαとの結合を阻害しないことから、クライアントタンパク選択的Hsp90阻害薬の開発が可能であることが明らかとなった。そこで、(-)マーキアインとHsp90の結合様式をさらに詳細に解析し、Hsp90クライアントタンパク選択的Hsp90阻害薬の創薬につなげていきたいと考えている。また、(-)マーキアインがステロイドの効果を増強することを見出したことから、(-)マーキアインとステロイド薬の併用による副作用の減少効果について明らかにしていきたい。
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