研究課題
本研究は、2つの糖転移ドメインを有する糖転移酵素LARGEの糖鎖伸長機構の解明を目指すものである。非変性質量分析(nMS)、X線小角散乱(SAXS)、高速原子間力顕微鏡(AFM)を行うためのモデル系として、本年度はLARGEと同じドメイン構成を有する大腸菌由来のバイファンクショナルな糖転移酵素K4CPを用いた実験条件の検討に主に注力した。K4CP のSAXSの散乱プロファイルから本タンパク質の慣性半径は37オングストロームと見積もられた。すでに報告されている結晶構造から予想される散乱プロファイルと比較したところ、K4CPの溶液構造は単量体よりも2量体モデルとよく一致した。一方でnMSでは、K4CPは大部分が単量体に由来するイオンピークを与えたものの、2量体由来のピークも一部観測された。これらのことから、K4CPは溶液中では2量体を形成しており、その分子間の相互作用が弱いためnMSの条件では、2量体が解離した単量体に由来するシグナルが優先的に検出されたものと考えられる。また、高速AFMによってK4CPに由来する2輝点が近接している像が観測され、2つの輝点が揺動している様子を観察することに成功した。さらに、基質を加えることで、時間の経過とともに合成された糖鎖と考えれる構造体が伸延する様子が確認され、K4CPによる糖鎖合成の過程を捉えることができた。K4CPの2量体の結晶構造では、K4CPのグルクロン酸転移ドメインとNアセチルがラクトサミン転移ドメイン間は分子内、分子間のいずれにおいてもおよそ50オングストローム離れているが、水溶液中ではK4CPは2量体を形成するサブユニットの配向を柔軟に変化させることにより、2種類の触媒ドメインを空間的に接近させ、糖鎖のリピート構造の伸長を効率的に行っている可能性が考えられる。
2: おおむね順調に進展している
様々な物理化学的計測を行うことで、LARGEと同等のドメイン構成を有する糖転移酵素であるK4CPのキャラクタライズを行うとともに糖鎖伸長過程を捉えることができた。これにより、LARGEの構造解析を行う基盤が整った。以上、総合的に判断して概ね順調に研究は進展している。
モデル系として利用しているバイファンクショナルな糖転移酵素K4CPに関しては、高速AFMと一分子蛍光共鳴エネルギー移動の同時計測を行うことで、糖鎖合成と分解過程における酵素のダイナミクスを一分子レベルで解析することを試みる。一方で、K4CPの研究を通じて得られた基盤技術の蓄積を利用して、LARGEによる糖鎖の伸長機構の構造基盤を明らかにすることを目指す。
3月に予定していた研究打合せを次年度に変更したため、若干の残額が出た。
残金は物品費に組み入れて研究を進める。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 4件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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