研究課題/領域番号 |
15K07938
|
研究機関 | 北海道医療大学 |
研究代表者 |
柳川 芳毅 北海道医療大学, 薬学部, 准教授 (20322852)
|
研究分担者 |
平出 幸子 北海道医療大学, 薬学部, 助教 (50709277)
飯塚 健治 北海道医療大学, 薬学部, 教授 (10344467)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | マクロファージ / アドレナリン / 糖質コルチコイド / ストレス |
研究実績の概要 |
ストレス-神経系による炎症・免疫・組織修復反応の新しい制御機構を解明することは,現代社会におけるストレスと炎症・免疫疾患との関係を明らかにする手がかりとなり,新たな疾患制御法の確立につながると考えられる. マクロファージは,病原体を認識し炎症・免疫反応を誘導するが,組織修復反応においても重要な役割を果たしている.このようなマクロファージによる反応に異常が起これば様々な疾患の原因となる.生体がストレスを受けると,交感神経系を介しアドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコラミンが分泌され,同時に内分泌系からは糖質コルチコイドが分泌される. 平成28年度は,マクロファージ(RAW264.7マクロファージ細胞株)に,アドレナリンと合成糖質コルチコイドであるデキサメタゾンを同時処理することによって,共刺激分子であるCD86の発現が上昇し,これとは逆に免疫チェックポイント分子であるPD-L1の発現が低下することを見出した. アドレナリン単独処理によるCD86の発現上昇については,これまでに報告があり,自己免疫疾患との関連性が示唆されている.一方,CD86とPD-L1の発現バランスに対するストレス関連物質の組み合わせによる影響については報告が無く,当該年度の研究によって新しい現象が見出されたと言える.今回見出された CD86/PD-L1バランスの変化は,ストレス関連性の炎症・免疫疾患の病態に関係している可能性があり,詳細なメカニズムを解明することは,ストレスと疾患との関係を明らかにする新たな手がかりになると考える.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
免疫チェックポイント分子とは,T細胞上に発現するPD-1とそのリガンドであるPD-L1/2などのcell-cell contactを介した免疫抑制分子の総称である.平成28年度においては,RAW264.7マクロファージの細胞表面における,PD-L1/2と共刺激分子であるCD86の発現バランスに対するストレス関連物質(アドレナリンおよび糖質コルチコイド)の影響について解析した.RAW264.7マクロファージをアドレナリンで処理することによりCD86の発現が有意に上昇した.この上昇は合成糖質コルチコイドであるデキサメタゾンとの同時処理により増強された.一方,PD-L1の発現は,アドレナリンまたはデキサメタゾンの単独処理によって減少傾向を示し,両者を併用することにより著しく減少した.CD86はT細胞活性化におけるアクセル役でありPD-L1はブレーキ役であることから,今回見出した現象は,T細胞活性化促進に働く可能性があり,ストレスによる炎症・免疫疾患の増悪に関与しているのかもしれない. RAW264.7マクロファージにおいて,PD-1のリガンドであるPD-L1の発現が認められたが,もう一つのリガンドであるPD-L2の発現は認められなかった.上記の研究を行う過程において,ある培養条件下ではPD-L2の発現が著しく上昇することを見出している.PD-L2は,PD-1以外の分子(RGMb)にも結合し,気管支ぜん息におけるアレルギー反応を抑制的に調節していることが示唆されている(JEM, 2014).したがって,PD-L2発現上昇のメカニズムを詳細に解析することは,新しい免疫制御法によるアレルギー疾患治療薬の開発につながる可能性がある. このように本年度の研究においては,いくつかの興味深い知見が得られているが,原著論文として公表に至っていないためやや遅れていると考える.
|
今後の研究の推進方策 |
マクロファージは炎症・免疫・組織修復反応において中心的な役割を果たしている.我々はこれまで,マクロファージの機能に対するストレス関連物質(アドレナリンや糖質コルチコイド)の影響について研究を進めてきた.平成27年度では,アドレナリンがマクロファージにおけるTGF-β3 mRNAの発現を上昇させることやインターロイキン(IL)-33の発現を増強する事を見出している.平成28年度では,RAW264.7マクロファージに,アドレナリンと合成糖質コルチコイド(デキサメタゾン)を同時処理すると,共刺激分子であるCD86の発現が上昇し,これとは逆に免疫チェックポイント分子であるPD-L1の発現が低下することを見出している.しかしながら,それらの分子メカニズムの解明は不十分である.これらの現象は,それぞれの分子の特性から炎症・免疫・組織修復反応に関与していると考えられるが,今後この点について詳細な解析を進める予定である. 組織が損傷を受けると,炎症・免疫反応の誘導,有害因子の除去,炎症の収束,組織修復反応が段階的に起こり組織の修復が完了する.マクロファージはこれらすべての段階に関与していると考えられている.今後は,平成27-28年度において見出されたストレス関連物質による現象が,これらの各段階において実際にどのように連携して炎症・免疫・組織修復反応を制御しているかについて,分子レベル,細胞レベル,個体レベルで解析を行う予定である.これにより,炎症・免疫・組織修復反応の新たな制御法が見出されることを期待している.
|
次年度使用額が生じた理由 |
キャンペーン価格等による値引きにより,想定していた金額よりも実際の金額が下回ったため.
|
次年度使用額の使用計画 |
当初の計画通り,物品購入等に使用する予定である.
|