申請者らは、腫瘍細胞において特定の細胞膜上分子(増殖因子受容体等)が会合体を形成する現象について、申請者らが開発したEMARS法およびプロテオーム技術を用いて研究を進めてきた。これら分子会合体はシグナル伝達経路等を介して腫瘍細胞形質の発現に関与していると考えられ、創薬ターゲットとしての有用性が期待された。この「2分子会合体情報」を用いた分子標的薬の選択法は全く新奇の方法であり、悪性腫瘍の治療薬剤の選択に有用であると考えられる。 本年度は、以下の2つについて研究を実施した。 1)前年度に引き続き、2分子会合体に対する機能阻害薬剤および抗体を利用し、in vitro細胞増殖阻害実験を実施した。阻害剤単剤では効果がない場合も、2分子会合体情報を基に併用処理すると効果を示す薬剤があることが分かった。これは、薬剤開発において、有効性がなかった薬剤を併用し、リバイバル薬剤として使用できる可能性を示す結果であり、今後の展開が期待される。また、ある種の2分子会合体情報を基に選択した抗体同士の組み合わせ処理により、細胞増殖に変動がある可能性が認められたため、抗体をクロスリンクする方法で細胞増殖阻害に有効であるか検討した。 2)がん細胞から放出される細胞膜断片が血液中に存在している可能性を検討した結果、マウス肺がんモデル血清中に肺がん細胞から分泌されたextracellular vesicleが検出された。そのextracellular vesicle上の2分子会合体をEMARS反応を用いて探索した結果、いくつかの特異的候補会合体を挙げることができた。
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