膵臓癌における前立腺幹細胞抗原PSCAの発現制御機構を解析するにあたり、十分にPSCAが発現する膵臓癌細胞を用いることが必要である。PSCAは膵臓癌組織で高発現すると報告されている。しかしながら一方で、通常のプラスチックプレート上で膵臓癌細胞株を培養した時に、その発現レベルが非常に低いことが知られている。そのため、本研究ではまず肝臓転移膵臓癌細胞株KMP2を用い、低吸着プレートを用いた3次元(3D)培養がPSCA発現に及ぼす影響について検討した。KMP2細胞を低吸着プレートで培養した結果、比較的均一なスフェロイドの形成が認められた。そこで同細胞を通常のプラスチックプレートおよび低吸着プレートで1週間培養した後、定量的RT-PCR法にてPSCAの遺伝子発現を比較検討した。その結果、低吸着プレートを用いた3D培養により、PSCAのmRNA発現は37.8±3.6倍有意に増加した。さらにウエスタンブロッティングを用いてPSCA蛋白質の発現を解析した結果、mRNAと同様に3D培養により有意な蛋白質発現増加が認められた。また、3D培養で発現誘導が認められたPSCA蛋白質は、本来の推定分子量約13KDaにもかかわらず、ウエスタンブロッティングにおいて35KDa付近にブロードなバンドとして検出された。そこで3D培養したKMP2細胞の蛋白質抽出物をN-グリコシダーゼ処理し、ウエスタンブロッティングを行った結果、PASA蛋白質は13KDa付近にシャープなバンドで検出された。以上の結果から、3D培養はKMP2細胞における修飾PSCA蛋白質の発現を誘導することが明らかとなった。本培養系は、膵臓癌細胞におけるPSCAの発現制御機構の解析を行う上で、有用であると考えられる。
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