前年度までの検討により、肝臓転移膵臓がん細胞株KMP2を、低吸着プレートを用いた3次元(3D)培養を行うことにより、前立腺幹細胞抗原PSCAを高産生する細胞へ誘導できることが明らかとなった。そこで本研究では、KMP2の3D培養時におけるPSCA誘導機構の解析、ならびに膵臓がん転移に関わるその他の因子の発現変化について検討を行った。 昨年までの検討から、3D培養したKMP2細胞におけるPSCAの発現は、Numbにより負に制御されていることが明らかとなった。膵臓がん組織において、Numbの発現低下時にMusashi-2(Msi2)の発現が増加し、膵臓がんの転移悪性化を誘導するという報告されていることから、2D培養および3D培養時におけるMsi2のタンパク質発現変化についてウエスタンブロッティングを用いて検討した。その結果、2D培養と比較してPSCAの発現増加およびNumbの発現低下が認められる3D培養時において、Msi2の発現増加が認められた。また、レンチウイルスを用いてNumbタンパク質発現を安定的にノックダウンしたKMP2細胞では、3D培養時においてコントロール細胞に比べ、顕著なMsi2タンパク質の発現増加が認められた。 一方、NumbはHypoxia Inducible Factor -1α(HIF-1α)との相互作用が報告されているため、3D培養KMP2細胞にHIF-1阻害剤を処理し、PSCAの発現について検討を行った。その結果、HIF-1阻害剤処理によりPSCAタンパク質の発現低下が認められた。以上の結果より、膵臓がん細胞において、PSCAおよびMsi2などの転移悪性化に関与する因子がNumbにより負に制御されており、これら分子機構は一部、HIF-1依存的に制御されることが明らかとなった。
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