研究課題/領域番号 |
15K07944
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研究機関 | 昭和大学 |
研究代表者 |
板部 洋之 昭和大学, 薬学部, 教授 (30203079)
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研究分担者 |
山口 智広 昭和大学, 薬学部, 准教授 (50347530) [辞退]
小濱 孝士 昭和大学, 薬学部, 准教授 (60395647)
加藤 里奈 昭和大学, 薬学部, 助教 (30392400)
笹部 直子 昭和大学, 薬学部, 助教 (50643566)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リポタンパク質 / 酸化LDL / LC-MS/MS / 安定同位体標識 / 酸化リン脂質 / LCAT / リゾPC |
研究実績の概要 |
酸化的変性を受けた低比重リポタンパク質(oxLDL)が動脈硬化症の発症要因であること、またそこに含まれている酸化ホスファチジルコリン(oxPC)が、様々な細胞を刺激する炎症惹起性分子であり、多くの疾患に関わる可能性が知られてきた。当研究室で行っているヒト血漿中から分離したoxLDLの脂質組成解析の予備的な結果から、血漿oxLDL中には必ずしもoxPCやlysoPCの蓄積が見られない可能性が示されている。生体内でのoxLDLの代謝動態を明らかにするため、安定同位体標識プローブを用いたリピドミクスの応用を計画した。 市販の重水素化ジパルミトイルPC(d13-DPPC)からハチ毒ホスホリパーゼA2処理により、重水素化lysoPC(d13-lysoPC)を調製した。健常ヒトLDLにd13-lysoPCを添加し、標識LDLとした。標識LDLをHDLと37℃でインキュベートした後、LDLとHDLそれぞれの脂質成分をLC-MS/MSで分子種分析した。HDL存在下では経時的にd13-lysoPCが減少し、4時間後には50%以下になった。同時にd13-lysoPCに由来する様々な分子種のジアシル型PCが生成し、反応時間依存的に増加した。最も高いピークが得られた分子種はC34:2-PCであり、リノール酸がアシル化されたことが示唆された。生成したジアシル型PCはLDL、HDLの双方に分布した。この反応系にLCATの阻害剤であるDTNBを加えると、ジアシル型d13-PC の生成が抑制された。一方、Lp-PLA2阻害剤のpefablocではほとんど影響を受けなかった。LDLの酸化変性により生じたlysoPCは、ヒト血中ではHDLのLCATにより再アシル化されジアシル型PCに変換し、一部はHDL粒子に移動することが示された。次年度以降、oxPCのモデルとして重水素化glutaroyl-PC(d13-PGPC)を用いて、酸化物についての代謝様式の解析をすすめる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
安定同位体標識lysoPCを用いて、LDL中のlysoPC分子に由来するジアシル型PCの分子種をとらえることができた。用量依存性、経時的な変化を確認した。産物のLDL、HDL間の分布についても明らかにでき、これらの分子の粒子間移行が起こっていることが明らかにできた。この反応がLCAT依存的であることを確かめた。昨年度予備的な検討にとどまっていたものが、実験回数を重ねて、しっかりとした結果にまとまりつつある。 また、プローブとして用いるd13-lysoPCの調整も再度行い、作成条件の改善により終了を高めることが出来た。標識酸化リン脂質プローブの合成を行い、d13-lysoPCにC5のジカルボン酸をアシル化したd13-PGPCを作成した。今後の短鎖型のoxPCを用いた代謝実験に供する。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の第一の目標は、LDL上のoxPCについて血漿中のリポタンパク質間で起こる代謝的変換とリポタンパク質粒子間移行について、検討を進めることである。すでに28年度までの検討で、lysoPCについては代謝反応および粒子間移行が起こることは示されてきているので、oxPC分子がどのように動くのか比較しながら検討する。これまで、酸化反応により生じたoxPCは加水分解されてlysoPCとなりLDLに蓄積すると考えられてきたが。本研究ではLDL中のlysoPCが蓄積せずに再アシル化され粒子間を動く可能性が強く示唆される。では、oxPCの加水分解がどのような効率で進むのか、加水分解を経ずに直接移動する代謝経路はあるのかなどについて検討する。 また、今回見出したd13-lysoPCの代謝にはLCATが関わっているので、LDL,HDL上のコレステロールエステルの分子種変動についても、検討を試みる。もともと荷電を持つリン脂質に比べると、コレステロールエステルなどの中性脂質はLC-MSでの検出が難しく、十分な感度が得られない可能性があるが、予備的な分析条件の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度末、最後に27220円の残額が生じた。内27000円は3月に開催された日本薬学会の学会参加費。それを除くと220円が残った。わずかな額ではあるが、目的に沿った有効利用に努めるため、次年度の研究費と併せて使用させて頂きたい。
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次年度使用額の使用計画 |
平成29年度の予算と合わせて、物品費(試薬等の消耗品)として利用する。
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