レトロウイルス発現系を用いて、 DDHD1(PA-PLA1)およびその活性変異酵素(S537A)を培養膵臓癌細胞PANC-1に遺伝子導入し、安定発現細胞株を樹立した。DDHD1および活性変異酵素の発現により、膵臓癌細胞の増殖や生存が低下することが明らかとなった。 膵臓癌細胞は抗癌剤に耐性であることが知られているが、DDHD1および活性変異酵素の発現により、抗癌剤(エトポシド)の感受性が増加した。すなわち、より低濃度のエトポシドよって、アポートーシスが誘導されることが明らかとなった。 DDHD1および活性変異酵素を発現した膵臓癌細胞は、細胞周期がG2/M期で一部停止した。また、MitoTrackerの取込みや酸素消費速度を測定すると、DDHD1および活性変異酵素の発現により、ミトコンドリアの呼吸(電子伝達系)が亢進することが明らかとなった。 DDHD1や活性変異酵素の発現、細胞増殖・生存、細胞周期、ミトコンドリア呼吸の4者の関係を明らかにするため、膵臓癌細胞の電子伝達系を薬理学的に亢進した。癌細胞はピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼが亢進することで、ピルビン酸デヒドロゲナーゼをリン酸化・抑制し、トコンドリアの呼吸(電子伝達系)が低く保たれていることが知られている。ジクロロ酢酸ナトリウムは、ピルビン酸デヒドロゲナーゼキナーゼの阻害作用があり、キナーゼの阻害の解除によって、ピルビン酸デヒドロゲナーゼを亢進させ、ミトコンドリアの呼吸(電子伝達系)を亢進させることが知られている。 膵臓癌細胞をジクロロ酢酸ナトリウムで処理すると、細胞周期がG2/M期で一部停止した。また、細胞の生存が低下した。この結果は、膵臓癌細胞にDDHD1や活性変異酵素を発現させた場合と相関していた。以上の結果を総合すると、DDHD1や活性変異酵素の発現亢進→ミトコンドリア呼吸の亢進→細胞周期G2/M停止→細胞増殖・生存の低下に繋がることが考えられた。
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