研究課題/領域番号 |
15K07948
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
多田 周右 東邦大学, 薬学部, 教授 (00216970)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | Cdt1 / RecQ4 / DNA複製 / ゲノム安定性維持 / 非相同末端結合修復 |
研究実績の概要 |
本研究計画は、DNA複製開始に必須なCdt1、Cdc6、RecQ4の3つのタンパク質に焦点を絞り、これらの遺伝情報安定性維持への寄与を示すことを目的とする。Cdt1については、DNA複製に先立つDNA複製開始の準備段階に寄与するだけでなく、DNA複製における新生DNA鎖伸長反応を抑制する作用も持つことをこれまでに明らかにしてきた。そこで、Cdt1が新生DNA鎖伸長反応を抑制しているときのクロマチンの状態について、アフリカツメガエル卵抽出液無細胞DNA複製系をもちいて検討をおこなった。その結果、Cdt1による新生鎖伸長抑制作用によって過剰な一本鎖の露出が起きないことが示唆されたため、Cdt1 はDNAポリメラーゼによる新生DNA鎖の合成反応ではなく、DNA複製フォークの進行を抑制することで新生DNA鎖の伸長反応を抑制しているものと考えられた。また、Cdt1の各種点変異体を作出し、その作用を検討したところ、Cdt1の新生DNA鎖伸長抑制作用には、Cdt1の中間部に位置するループ領域の構造が重要なはたらきをしていることを示唆する結果が得られた。 一方、RecQ4については、ヒトRecQ4 の N末端領域を組換えタンパク質として作出し、その遺伝情報安定性維持への影響について検討をおこなった。その結果、ヒトRecQ4のN末端側領域の一部(DNA複製開始に必要十分な領域)をアフリカツメガエル卵抽出液中に加えることにより、抽出液中で線状のDNA鎖が環状化する反応が抑制されることを見出した。この結果は、DNA二本鎖切断に対する非相同末端結合修復において、RecQL4が何らかの機能を果たしていることを示唆するものであると考えており、これについて今後、生化学的な解析だけでなく、過剰発現細胞などを用いた細胞レベルでの解析にも発展させ、詳細な検討をおこなう予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の申請における平成27年度の研究計画は、DNA複製や修復などのDNA動態に対する各種組換えタンパク質の影響を生化学的に解析するとともに、培養細胞系を用いて生化学的な解析結果を補強するための環境を整えることを目標とした。Cdt1については、これまでの解析に用いた欠失変異タンパク質に加えて、さらに多くの欠失変異タンパク質を作出するとともに、これらの解析からDNA複製時の新生DNA鎖の伸長を抑制する働きに重要と考えられる領域の点変異体も作出し、それらの活性やDNA複製活性、DNA複製時のクロマチン動態に対する影響を検討した。その結果は、一報の論文と数回の学会発表にまとめた。また、DNA末端を非相同的に結合する活性を生化学的に検討する系の確立を目指しており、その中途段階ではあるが、RecQ4のN末端側の部分領域がこの活性を抑制することを示唆する結果を得ている。 培養細胞については研究実績の概要には触れていないが、各種タンパク質の強制発現や遺伝子操作に向けて、フリップイン-システムやCRISPR-Cas9によるゲノム編集のためのプラスミドの構築などの準備を整えている。 以上のように、本研究計画は概ね順調に進捗しているものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、DNA複製抑制作用に関与するCdt1の領域を明確に絞るとともに、その領域に相互作用する他のタンパク質をプロテオミクスの手法を利用して検索することを目指す。候補となるタンパク質が得られた場合には、DNA複製に対する当該タンパク質の機能について検討を加える。これにより、Cdt1によるDNA複製抑制作用の生化学的実態を明らかにするとともに、DNA複製への新たな制御機構が明らかになるものと期待している。 また、DNA二本鎖切断修復については、非相同末端結合の定量化と相同組換え修復を生化学的に再現し、これに対するRecQ4の影響を各種欠失変異体、点変異体を用いて検討することを目指す。このような検討から特定の作用に重要な機能領域が見いだされれば、Cdt1と同様にして、その領域に作用するタンパク質を見出し、さらなる解析に発展させる。 培養細胞を用いた実験系については、生化学的解析から意義が認められる各種の変異体を強制発現させたり、ゲノム編集によって内在性の遺伝子を改変したりするなどの方法を用いて、生化学的解析の結果を、細胞生物学的な手段によって検証する。同時に、培養細胞の解析から得られた結果を無細胞実験系などの生化学的実験により再現し、その分子的基盤を探ることも目標に据える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に実施した研究は、研究計画の初年度ということもあり、既存の研究設備、機器、汎用的な試薬を利用し、すでに当該研究室で稼働している実験系を応用した検討を優先しておこなった。また、新規の実験系を構築するような研究については、実験系の樹立のための条件検討が多かったため、一度購入した試薬を繰り返し使用する実験がおこなわれる期間を長く設けることとなった。その結果として、当該年度の研究費使用額が所要額として申請された額より少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には、プロテオミクス的解析などのように、キットなどを用いて汎用的に使われる手法でありながら所属研究室でこれまでに行われていない実験系を活用して解析を進めることを想定しており、そのために他の実験と併用できない比較的高額な試薬や新たな実験機器を利用することになると考えている。また、初年度に条件を検討した生化学的あるいは培養細胞を利用した実験系を用いて詳細な解析を進めていくことになるため、多様な変異を導入した組換えタンパク質を多種作出するなど、細かく解析条件を変動させながら検討を進める必要がある。したがって当該年度に未使用となり次年度に繰り越した経費は、次年度以降に使用される予定である。
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