研究課題/領域番号 |
15K07958
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
宮内 浩典 国立研究開発法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, 副チームリーダー (50619856)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | IgA / Influenza virus / Th1 / Lung |
研究実績の概要 |
前年度までの研究において、肺でのインフルエンザウイルス特異的IgAの産生にはヘルパーT細胞が必要であるが、一般に抗体産生を誘導する濾胞性ヘルパーT細胞はこのIgA産生に必須でないことが明らかとなっていた。またインフルエンザウイルス感染後のIgAの誘導に先立って肺にⅠ型ヘルパーT細胞(Th1)細胞が誘導されることも明らかとなっていた。H28年度においては、Th1細胞によるIgA産生メカニズムの解明を目的として研究を行った。Th1細胞が主に産生するサイトカインであるIFNgのIgA産生への寄与は、IFNgの欠損マウスでウイルス特異的IgA産生が低下したことより確かめられた。インフルエンザウイルスの感染後、ウイルス特異的Th1細胞は肺のみならず、マウスの排出リンパ節や脾臓においても認められるようになるが、IgAは肺において優先的に産生される。このことから肺にはB細胞をIgA産生B細胞へと分化させる特有の環境が整っていることが考えられる。この肺特有の環境について調べるために、インフルエンザウイルス感染前後での肺の常在細胞(肺胞上皮細胞や肺胞マクロファージなど)のトランスクリプトーム解析を行った。その結果、ウイルス感染により、これまでの研究からB細胞でのIgA産生に関与することが報告されているIL-6、TSLP、IL-33、IL-22、IL-23、IL-25などを含む多数のサイトカインの発現の上昇が認められた。IL-6欠損マウスでは実際にウイルス特異的IgAの産生の低下が認められた。TSLP、IL-33、IL-22、IL-23、IL-25の欠損マウスではIgAの低下は認められなかった。これらのことから、ウイルス感染によって肺に誘導されたウイルス特異的Th1細胞がIL-6存在下でB細胞と相互作用することによって、ウイルス特異的IgA産生B細胞が形成されるという機構が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H28年度において、本研究課題での主な目標である、肺でのインフルエンザウイルス特異的IgA産生に必要なヘルパーT細胞とサイトカインの同定が達成されており、計画はおおむね順調に進展していると考えられる。肺でのインフルエンザウイルス特異的IgAの産生には、ウイルス感染によって肺に誘導されるTh1細胞と、感染肺において多量に産生させるIL-6が必要であることが、本年度の研究によって明らかとなった。これらの成果は最終年度における、ウイルス特異的IgA産生機構の全容の解明にむけての重要なマイルストーンとなるため、本研究課題の進捗状況は順調であると判断するものである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方針としては、肺でのウイルス特異的IgAの産生機構の全容を明らかとするために、1)肺へのTh1細胞の誘導機構の解明、2)IL-6によるウイルス特異的IgA誘導機構の解明、を進めていく。ヘルパーT細胞の分化誘導には樹状細胞が重要な働きをすることが知られているが、近年、Th1細胞への分化誘導を促進する特定の樹状細胞サブセットが存在することが明らかとなってきた。インフルエンザウイルス感染において肺に誘導される樹状細胞を分離しトランスクリプトーム解析を行うことにより、Th1細胞の分化誘導を決定している樹状細胞を同定し、肺へのTh1細胞の誘導機構の解明する。 これまでの研究よりIL-6がウイルス特異的IgAの産生には重要であることは明らかとなっているが、そのメカニズムについては不明である。そこでIL-6レセプターシグナルの伝達に必須であるSTAT3分子の細胞特異的な欠損マウスを用いて、IL-6シグナルがどの細胞において必要であるのかを検証する。またT細胞からのIL-6産生のIgA誘導への寄与を調べるために、IL-6欠損マウスから分離したT細胞による移入実験を行う。これらの実験を通じてIL-6の産生源と標的細胞を明らかとし、IL-6によるウイルス特異的IgA誘導機構の解明を目指す。H29年度が本研究における最終年度となるため、年度の後半においては研究成果をまとめて論文発表することに注力する。
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