本研究では、sPLA2群の時空間的な発現パターンと遺伝子欠損マウスの表現型の相関をもって、メタボリックシンドロームに関わるsPLA2アイソザイムとその作用メカニズムを分子レベルで解明することを目指した。 1. sPLA2-IID:これまで全身性またはマクロファージ特異的sPLA2-IID欠損マウスでは高脂肪食負荷によるメタボリックシンドローム(肥満、インスリン抵抗性)の表現型が増悪することを見出していた。本年度、sPLA2-IID欠損マウスでは寒冷刺激による白色脂肪細胞のベージュ化が抑えられた。sPLA2-IIDは正常時の脂肪組織において高度不飽和脂肪酸(PUFA)を動員し、脂肪酸を認識する受容体であるGPR120を介して脂肪組織の炎症を抑制するとともに、脂肪細胞のベージュ化を促進してエネルギー消費の亢進に寄与することが判明した。 2. sPLA2-III:sPLA2-IIIは脂肪組織や他の代謝関連組織よりも表皮に高発現しており、sPLA2-III欠損マウスでは皮膚バリア異常が見られることからsPLA2-III欠損によるメタボリックシンドロームの改善が皮膚恒常性の変容によるものではないかと考えた。本年度は、皮膚特異的sPLA2-III欠損マウスの作成し、高脂肪食負荷を施すと、皮膚特異的sPLA2-III欠損マウスは全身性のノックアウトマウスと同様にメタボリックシンドローム(肥満、インスリン抵抗性)の表現型が改善されることを見出した。 3. sPLA2-X:これまでsPLA2-Xは大腸に高発現しており、sPLA2-X欠損マウスに高脂肪食負荷を施すとメタボリックシンドロームの表現型が増悪することを見出している。本年度はsPLA2-X欠損によるメタボリックシンドロームの増悪が大腸恒常性の変容によるものか検証するために腸管特異的sPLA2-X欠損マウスを作成した。
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