研究課題
近年、糖尿病や肥満等の生活習慣病は、免疫系の破綻に伴う慢性の持続性炎症を基盤として発症・進展することが明らかになっている。以前我々は、生薬甘草に含まれるイソリクイリチゲニン(ILG)がNLRP3インフラマソーム活性化を強力に阻害し、高脂肪食摂餌マウスにおいて内臓脂肪組織の炎症状態を改善することで抗糖尿病効果を示すことを見出してきた。本研究は、1.ILGのインフラマソーム抑制効果の作用機序の解明と、2.ILGの動物レベルにおける更なる有効性の検証を主目的としている。1に関しては、ILGがインフラマソーム構成タンパクであるASCの多量体化やリン酸に与える影響について検討した。また、ミトコンドリア由来の活性酸素の産生に与える影響についても検討を加えた。2に関しては、内臓脂肪の線維化に対するILGの効果を調べるため、マウスに高脂肪食とILGを与え、内臓脂肪組織の線維化への影響を検討した。普通食を与えたマウスに比べ、高脂肪食を与えたマウスでは、線維化が多く認められたが、ILG混餌高脂肪食を与えたマウスでは、高脂肪食による線維化が顕著に抑制されていた。さらに詳細に検討したところ、ILGはマクロファージに作用し、自然免疫センサーであるMincleやTLR4による線維化関連遺伝子の発現を抑制することが明らかとなった。従って、ILGは内臓脂肪のマクロファージに作用し、線維化を抑制すると想定された。また、高脂肪食摂餌マウスや自然発症型糖尿病モデルマウスであるdb/dbマウスを用いてILG封入PLGA(Poly lactic-co-Glycolic Acid)ナノ粒子の有効性についても評価を行った。
2: おおむね順調に進展している
所属機関動物実験施設の改修工事に伴い、当初予定していた長期間マウスを飼育する実験が計画通り進んでいない部分もあるが、2016年度に予定していた短期間で評価を行う実験を前倒しで実施し、総合的にはおおむね順調であると考える。
1 ILGのNLRP3インフラマソーム活性化阻害機序の解明インフラマソームは活性化に伴い様々な分子と結合し、多量体を形成することでIL-1β産生を誘導する。そこでILGの阻害機序を明らかにするため、以下の項目について検討を行う。(1)インフラマソームとNEK7, Btk等との結合や多量体形成に対するILGの作用を解析する。(2)ILGを磁気ビーズに結合させる方法又はDARTS法を用いて、ILGに結合する蛋白質を網羅的に探索する。(3)インシリコ解析ソフトを用いて、インフラマソームとILGとの結合をシミュレーション解析する。2 ILGの動物レベルにおける更なる有効性の検証2型糖尿病モデルとして汎用されているdb/dbマウスへの効果を検討するため、ILGを投与し、肥満、血糖値への影響を調べるほか、以下の点について解析する。(1)内臓脂肪組織の炎症状態を、TNF-α、IL-6、MCP-1、IL-1β等のサイトカインやインフラマソーム構成因子であるNLRP3、ASC、カスパーゼ-1 の発現をリアルタイムPCR 法で測定し評価する。高脂肪食摂餌により内臓脂肪組織中へ浸潤する炎症性マクロファージ等の免疫細胞をフローサイトメトリーを用いて解析し、細胞数を測定する。(2)採取した内臓脂肪組織をex vivo培養し、培地中に産生されるIL-1βやカスパーゼ-1 の量をELISA法で測定する。(3)インスリン抵抗試験、糖負荷試験を実施し、血漿中のインスリン濃度についても検討を行う。
所属機関動物実験施設の改修工事が急に入ったことに伴い、3カ月程度動物実験を行うことができなかったため、マウスの購入数が予定よりも少なかった。
H28年度は改修工事も終了し飼育数も十分に確保できるため、動物実験を数多く行うための費用にあてる。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) 備考 (2件)
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 23097
10.1038/srep23097
http://www.med.u-toyama.ac.jp/immbio/index.html
http://www.toyama-yakuji.com/