研究課題/領域番号 |
15K07960
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研究機関 | 富山県薬事研究所 |
研究代表者 |
本田 裕恵 富山県薬事研究所, 主任研究員 (10463134)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 慢性炎症 / インフラマソーム / 糖尿病 / イソリクイリチゲニン |
研究実績の概要 |
近年、糖尿病や肥満等の生活習慣病は、免疫系の破綻に伴う慢性の持続性炎症を基盤として発症・進展することが明らかになっている。我々は、生薬甘草に含まれるイソリクイリチゲニン(ILG)がNLRP3インフラマソーム活性化を強力に阻害し、高脂肪食摂餌マウスにおいて内臓脂肪組織の炎症状態を改善することで抗糖尿病効果を示すことを見出してきた。本研究は、1. ILGのインフラマソーム抑制効果の作用機序の解明と、2. ILGの動物レベルにおける更なる有効性の検証を主目的としている。 1. ILGの標的タンパクを探索するため、磁気ビーズ法及びDARTS法にて解析を行い、複数の候補タンパクを得た。当該タンパクのNLRP3インフラマソーム活性化における機能については現在解析中である。また、NLRP3インフラマソームのオリゴマー形成と活性化の調節因子であるNEK7とNLRP3の結合に与えるILGの影響について免疫沈降の系を用いて検討を行った。 2. 2型糖尿病モデルとして汎用されているdb/dbマウスへの効果を検討するため、ILGを混餌投与したところ、体重に影響を与えず2時間絶食時血糖値が有意に抑制され、インスリン抵抗性試験、糖負荷試験においても改善傾向を示した。内臓脂肪組織炎症状態の解析のため、(1)内臓脂肪組織における炎症性サイトカインやNLRP3インフラマソーム構成分子の発現をリアルタイムPCR 法で解析し、(2)内臓脂肪組織中へ浸潤する免疫細胞について解析を行い、(3)内臓脂肪組織をex vivo培養し、産生されるIL-1βやカスパーゼ-1の量を測定したが、いずれもILG投与により大きな影響は認めなかった。db/dbマウスではILG摂取により内臓脂肪組織炎症状態に影響はなく、ILGの抗糖尿病効果には高脂肪食摂餌マウスとは異なる機序が関与しているものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「1. ILGのインフラマソーム抑制効果の作用機序」については、現在のところILGの標的タンパクの同定には至っていないが、シグナルに関与するいくつかの分子に与える影響を明らかにすることができた。 「2. ILGの動物レベルにおける更なる有効性の検証」については、db/dbマウスに対する抗糖尿病効果を明らかにすることができた。実験結果から予想とは異なる作用機序が想定されるため、さらに検討を行う。
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今後の研究の推進方策 |
1. ILGのNLRP3インフラマソーム活性化阻害機序の解明 ILGの標的タンパクの同定のため、磁気ビーズ法やDARTS法によって得られた候補タンパクについて、対象遺伝子をノックダウンすることでNLRP3インフラマソーム活性化における機能を解析する。 また、既知のインフラマソーム活性化関連因子への影響を調べるため、以下の点について解析する。(1)ILGがオートファジーを促進することでNLRP3インフラマソーム活性化を抑制している可能性について検討を行う。(2)インフラマソーム活性化時に誘導されるミトコンドリアの損傷に与える影響を調べる。 2. ILGの動物レベルにおける更なる有効性の検証 db/dbマウスに対するILGの抗糖尿病効果の機序を検討するため、以下の点について解析する。(1)肝臓、骨格筋におけるインスリンシグナルに与える影響を検討する。(2)膵臓に与える影響を調べるため、膵臓中インスリン含量、血漿中プロインスリン濃度に与える影響を調べる。(3)膵島における小胞体ストレス遺伝子、炎症性サイトカイン遺伝子、インスリン遺伝子の発現に与える影響を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
抗体等の使用量が、計画していた量よりも少量で済んだため。
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次年度使用額の使用計画 |
db/dbマウスの解析を継続して行う必要性が生じたため、マウスの購入費・飼育管理費にあてる。また、細胞培養用試薬、プライマー等の実験用試薬購入のため使用する。
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