今年度は、ERK5による神経細胞の膜興奮性の制御機構のさらなる解明を試みた。神経細胞のモデルであるPC12細胞において、ERK5を選択的に活性化させると、電位依存性K+チャネル(Kv4.2および4.3)のmRNA発現量が増大する一方、電位依存性Ca2+チャネル(L、N、P/Q型)の発現量は変化しないことが、これまでにわかっていた。さらに、Kv4.2のβサブユニットであるK channel-interacting proteins(KChIPs)の発現量についても検討を加えたところ、KChip1-4の中でもKchip3のmRNA発現量が他のアイソフォームよりも50倍以上高く、PC12細胞ではKchip3が最も主要なものであることが明らかになった。しかし、ERK5シグナルによって、KChip3の発現量は有意に変化しなかった。さらに、Kv4.2のタンパク質レベルでの発現量を調べてみたところ、ERK5シグナルによってKv4.2 mRNAの発現の上昇が認められるにもかかわらず、Kv4.2タンパク質の有意な発現上昇は認められなかった。しかし、Kv4.2のリン酸化について調べたところ、ERK5の活性化によってKv4.2のリン酸化が亢進し、ERK5のドミナントネガティブ変異体ではKv4.2のリン酸化が抑制された。ERK5の活性化により一過性外向き電流(A電流)の不活性化が抑制することがすでに明らかになっていたが、この事象はERK5によるKv4.2のリン酸化に起因することが推測された。また、ERK5によるA電流の不活性化の抑制は、古典的Hodgkin-Huxleyのモデルにより神経の発火頻度が増大することことが明らかになった。
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