研究課題/領域番号 |
15K07964
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
久保原 禅 順天堂大学, スポーツ健康科学研究科, 教授 (00221937)
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研究分担者 |
大島 吉輝 東北大学, 薬学研究科, 教授 (00111302)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 細胞性粘菌 / DIF / がん / 糖尿病 / ミトコンドリア / 走化性運動 / 細胞分化 |
研究実績の概要 |
細胞性粘菌Dictyostelium discoideum(以後「粘菌」)は、発生生物学や細胞生物学研究のモデル生物として世界中で利用されている。我々は、粘菌細胞と哺乳類培養細胞を用いて細胞分化と走化性運動の機序解析を行っている。また、粘菌の「柄細胞分化誘導因子かつ走化性運動調節因子DIF-1」とその誘導体をリード化合物とした新規抗がん剤や糖尿病治療薬等の開発を進めている。 我々は、本研究課題(平成28年度)において以下を明らかにした。 1)粘菌細胞に存在するであろうDIF-1の標的分子(受容体)は未同定である。我々は、DIF-1を結合したカラムを作成し、粘菌細胞抽出物の中からいくつかのDIF-結合タンパク質(DBPs)を部分精製後、LC-MS/MS法によってDBPsを同定した。その結果、Glutathione S-transferase 4 (GST4)を見いだしたため、粘菌GST4KO株と過剰発現株を作成し、GST4が粘菌子実体のサイズを調節していること示した。即ち、DIF-1はGST4を介して粘菌子実体のサイズを調節している可能性が示された。 2)DIF-1の作用機序の全貌は明らかにされていないため、我々はDIF-1にBODIPY(蛍光体)を結合したDIF-1-BODIPYという化合物を合成し、その生物活性と細胞内局在を検討した。その結果、DIF-1-BODIPYが粘菌柄細胞分化誘導活性を有すること、また、DIF-1-BODIPYが粘菌ミトコンドリアに局在することを示した。さらに、ミトコンドリアuncouplerであるCCCPやDNPが粘菌柄細胞分化を部分的に誘導できること、CCCPやDNPがDIF-1同様に走化性運動を調節できることを示した。これらの結果は、DIF-1がミトコンドリアを介して、粘菌柄細胞分化や走化性運動を調節していることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
DIF-1は「粘菌の分化誘導因子かつ走化性運動調節因子」である。さらに、各種DIF誘導体は哺乳類細胞に対する生物活性を有することから、本研究課題においては、粘菌細胞と哺乳類細胞の両者を用いたDIF誘導体の作用機序解析が有効となる。 実際に、本研究課題の目標であるDIF誘導体の有する抗腫瘍作用と糖代謝促進作用の解析は順調に進んでいる。また、粘菌細胞におけるDIF-1の作用機序解析も進めており、この成果を参考にして、哺乳類細胞におけるDIF誘導体の作用機序解析に役立てている。さらに、蛍光体を結合したDIF誘導体を合成し、DIF誘導体の細胞内局在の解析や作用機序解析に利用している。
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今後の研究の推進方策 |
研究は順調に進んでおり、今後も以下を継続する。 1)DIF誘導体の有する複数の生物活性については、それらの作用機序の解析を進める。 2)これまでの成果を基に、より有効なDIF誘導体をデザイン/合成する。 3)モデル動物を用いて、DIF誘導体の薬効と毒性を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
私は平成27年4月より、前任地の群馬大学生体調節研究所から現在の順天堂大学スポーツ健康科学部に着任しました。そのため、平成27年度は研究室の立ち上げに、さらに平成28年度も研究を軌道に乗せるために時間を要し、一部実験計画を実行できず、研究費を持ち越すことになりました。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に予定していた実験計画を平成29年度に実施し、今回の繰り越し分を使用します。
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