研究課題/領域番号 |
15K07966
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
井上 剛 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (40370134)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 難治性てんかん / ケトン食療法 / 抗てんかん剤開発 / 乳酸脱水素酵素 / スチリペントール / グルタミン酸作動性シナプス / アセチルコリン |
研究実績の概要 |
てんかん患者の約3割は、既存の治療薬でコントロールできないことが知られている。この難治性てんかんの制御機構を明らかにし、治療薬開発に繋げることは重要である。そこで本研究において我々は、難治性てんかん制御剤の開発に向けて、以下3項目を行った。 1、我々はこれまで、治療薬耐性の難治性てんかんに有効な食事療法として知られる「ケトン食療法」の作用機構解明に取り組み、その抗てんかん作用に関わる生体内分子として乳酸脱水素酵素を同定し、さらにそれに作用する化合物として抗てんかん薬スチリペントールを同定した(Sada et al, Science, 2015)。そこで本年度は、スチリペントールを出発点とする新規抗てんかん薬開発に向け、新たな乳酸脱水素酵素阻害剤の探索を行った。プレートリーダーを用いたスクリーニングシステムを構築し、スチリペントール類似体を評価した結果、より強力な乳酸脱水素酵素阻害剤を複数同定した。 2、ケトン食療法時に体内で増加し、抗てんかん作用を示す生体内物質としてケトン体(アセト酢酸)が知られている。そこで、アセト酢酸によるシナプス作用をスライスパッチクランプ法を用いて検討した。その結果、アセト酢酸による興奮性シナプス(グルタミン酸作動性シナプス)の減弱作用は、てんかん様活動時に増強することを見出した。さらに、より強力なシナプス阻害作用を持つアセト酢酸類似体を我々は既に同定しているが、こちらも同様のシナプス作用を示すことも明らかとなった。 3、難治性てんかんとして知られる海馬硬化症を伴う側頭葉てんかんに関し、そのモデルマウスを作製し、制御機構解明に取り組んだ。海馬における主要な神経修飾物質としてアセチルコリンが知られている。そこで海馬硬化症モデルマウスのてんかん焦点に、アセチルコリン制御剤を微量投与したところ、自発的なてんかん発作活動が抑えられることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、新しい作用機序を持つ難治性てんかん制御剤の開発である。平成27年度(1年目)において、ケトン食療法に基づく治療薬開発に向け、乳酸脱水素酵素阻害作用を持つスチリペントール類似体を複数同定した。さらに、ケトン食療法の作用機構解析(ケトン体の神経作用)を別角度から進めるだけでなく、新たな難治性てんかん制御システムとしてアセチルコリンシグナル系も見出した。上記を踏まえ、順調に研究が進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度において、より強力な乳酸脱水素酵素阻害作用を持つスチリペントール類似体が明らかとなった。そこで平成28年度において、てんかんモデルマウスにこれらを投与し、抗てんかん作用を in vivo で評価する。また、ケトン体であるアセト酢酸およびその類似体による興奮性シナプス抑制作用を踏まえ、平成28年度は創薬開発に向けその標的分子を探索する。さらに、アセチルコリンによる抗てんかん作用に関しては、平成28年度はその作用メカニズム解析を進める予定である。
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