研究課題
大動脈解離は、大動脈壁が中膜レベルで二層に剥離し偽腔を形成した病態をいう。その発症機構は未だ解明されておらず、有効な治療法・予防法は確立されていない。その要因の一つとして、現時点では大動脈解離の適切なモデル動物が存在しないことが挙げられる。我々は、内皮機能障害を誘発する薬剤であるNω-nitro-L-arginine methyl ester (L-NAME)前投与により薬物誘発性血管内皮障害を惹起した後、Ang II + BAPNを投与する大動脈解離モデルの作製に成功した。一方、Extracellular signal-regulated protein kinase 5 (ERK5) は血管内皮細胞において抗アポトーシス作用、eNOS発現上昇、抗炎症作用等を有し、血管内皮保護シグナルの鍵分子として血管内皮機能の維持・保護に重要であることが報告されている。そこで我々は、ERK5-floxマウスをCdh5-Creマウスと掛け合わせて内皮特異的なERK5欠損マウスを作製した。flox/floxのホモ欠損マウスは胎生致死のためflox/-のヘテロ欠損マウスを使用する。ERK5欠損によって内皮機能が低下すると考えられるため、AngII + BAPN 投与によってL-NAME負荷と同様な大動脈解離の発症を認めるか否か検討しているところである。少数の動物で行った基礎実験から、Cre-のコントロールマウスではAngII + BAPNで死亡例は認めなかったが、ERK5 flox/- Cre+ の欠損マウスにAng II + BAPNを投与すると、投与開始後3週までに50%が大動脈破裂による死亡を認めた。現在、さらなる詳細な解析を進めているところである。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究目的は、ERK5-floxマウスをCdh5-Creマウスと掛け合わせて内皮特異的なERK5欠損マウスを作製することである。研究代表者らは内皮特異的なERK5欠損マウスの作製に成功した。さらにそのマウスに対して、解離誘発刺激 (L-NAME + Ang II + BAPN)を与えて大動脈解離の解析を行っている。従って、当初の計画に従っておおむね順調に進展していると考えられる。
ERK5-EKOマウスを用いて大動脈解離を誘発し、発症率及び病態悪化の有無を検討する。ERK5は血管内皮保護シグナルに重要な分子であるため、解離の誘導に際しl-NAMEによる血管内皮障害を必要としない可能性が考えられる。ゆえに、l-NAME非存在下でのERK5-EKOマウスの解離発症についても同時に検討を行う予定である。大動脈解離発症に関わる分子メカニズムを解析するため、培養血管内皮細胞及び培養血管平滑筋細胞を用いて詳細な解析を行う。またこれらのモデルに対するスタチンの効果を検討する。
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J Trace Elem Med Biol
巻: 35 ページ: 66-76
10.1016/j.jtemb.2016.01.011