申請者は消化管の知覚過敏性の原因について基礎薬理学的に検討を進め、「炎症性下部消化管疾患における知覚過敏性には温度感受性TRPV1・TRPM8発現神経の増加が関与している」という仮説を立てた。本年度の検討では潰瘍性大腸炎モデルマウスを作成し、消化管知覚過敏性の原因に関して検討を行った。 1.正常組織の免疫染色:正常マウスの大腸組織の横断面図におけるTRPM8の発現は粘膜、粘膜下の血管周囲、筋層の全層において観察され、免疫活性は肛門側に近い下部消化管粘膜において最も多く分布していた。また筋間神経叢においてはTRPM8発現細胞体が観察された。 2.病態組織の免疫染色:IBDモデルマウスの下部消化管粘膜においてTRPM8発現神経数の変化を検討したところ、TRPM8発現神経線維の数に顕著な増加が観察された。 3.痛覚過敏性:IBDモデルマウスにおいて内臓痛覚を検討したところ痛覚過敏が認められ、これはTRPV1遮断薬の処置により顕著に回復した。また、TRPM8アゴニストWS-12直腸内投与による疼痛様行動を検討したところ、IBDモデルマウスにおいて疼痛様行動は顕著に増加し、痛覚過敏が認められた。 以上の結果より、IBDモデルマウスにおいて、下部消化管粘膜層の温度感受性TRPM8発現神経線維は増加していることが明らかとなった。これまでの検討と考え合わせると、温度感受性TRPV1およびTRPM8発現神経の増加が炎症性の内臓痛覚過敏性に関与しているのであろうと考えられる。
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