本研究では、カイニン酸(KA)誘発癲癇モデルにて、PGE2及びEP3受容体の痙攣と神経機能障害における役割について明らかにすることを目的とした。KA投与後、PEG2合成に関わる誘導型酵素であるCOX-2とmPGES-1の発現が増加し、PGE2が海馬で産生されること、また、その受容体であるEP1~4のうち、特にEP2、3、4受容体の発現は有意に増加することを見出した。培養海馬切片のKA暴露によるCA3野神経細胞死は、EP1-4アゴニストのうち、EP3アゴニストのみが悪化させ、EPアンタゴニストのうちEP1とEP3アンタゴニストが抑制した。そこでEP3受容体欠損型マウスを用いて解析した。KA投与2時間の痙攣行動は、野生型に比べEP3欠損型で有意に軽度だった。また、4時間後の海馬歯状回でのc-fosの発現もEP3欠損型で軽度であった。さらに、痙攣誘発1日後の海馬CA3野の神経細胞の核凝縮と、3日後のcaspase-3の活性化と神経細胞脱落も、野生型に比べEP3欠損型で有意に軽度であった。KA投与4日後、野生型でみられた不安異常が、EP3欠損型では見られなかった。また、EP3欠損型ではミクログリア、アストロサイトの活性化、さらに、iNOSやTNFαの発現増加も欠損型で有意に軽度だった。EP3欠損型では野生型に比べCOX-2とmPGES-1の発現誘導が低く、海馬PGE2産生量も低値であった。以上より、痙攣後に海馬にてEP3受容体が発現増加し痙攣行動を悪化させること、さらにEP3受容体はポジティブフィードバック的にPGE2シグナルを増強し、痙攣後のグリア細胞の活性化と炎症反応、海馬神経細胞アポトーシスに寄与すること、さらにこれが不安異常にも寄与する可能性があることが示唆された。従って、EP3受容体は、側頭葉癲癇治療の新たなターゲットになるものと期待される。
|