研究課題/領域番号 |
15K07975
|
研究機関 | 星薬科大学 |
研究代表者 |
小林 恒雄 星薬科大学, 薬学部, 教授 (90339523)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 糖尿病 / 血管障害 / マイクロパーテイクル / 内皮機能 / 血小板 |
研究実績の概要 |
1.糖尿病ラット循環マイクロパーテイクルの抽出と内皮細胞機能障害について。動物モデルからMPの精製と血管機能への影響を検討した。まず糖尿病ラット血清より MP の精製を行った。血清から抽出後、フローサイトメトリーELISA法等により測定を行ったところ、Annexin V、CD62P、Platelet-Derived MPに陽性、CD61 に陰性のMPの抽出に成功した。これらの結果から、本実験手技におけるMPは、血小板由来のMPが多く含まれていることが示唆される。糖尿病群は、総頸動脈における 内皮依存性弛緩反応の減弱が観察された。糖尿病血小板由来MPの量は、正常動物より増加していることが確認された。摘出総頸動脈に、血液中に含まれる同数の MP を処置したところ、糖尿病群由来 MP 処置群は、 内皮依存性弛緩反応の減弱が認められた。更に、この時の血管内皮NO合成酵素 (NOS) のタンパク発現を比較したところ、糖尿病群MP 処置によって減少が認められた。また、NOS活性を負に制御する caveolin-1発現の増加も認められた。つまり糖尿病の血中MPは、直接血管内皮機能障害促進因子として作用していることが示唆された。2.糖尿病時におけるマイクロパーテイクル関連ストレスと血管機能異常について。今回の研究から糖尿病時における血管障害の主な原因として、高インスリン、酸化ストレス、小胞体ストレスは、糖尿病時における血管障害の原因であることが示された。更に、ポリフェノールの一種であるモリンは、抗酸化作用を示し、糖尿病時における血管内皮機能異常を改善した。特に興味深い事に、上述したMPの障害機序と同様なNOS 活性に直接影響し、著明な改善効果が認められたことより、糖尿病時における酸化ストレスが MP放出、Akt/eNOS pathway を障害し、血管機能障害を誘発している可能性が示唆される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究から、1.糖尿病時において血液中に存在する血小板由来MPの存在。2.糖尿病由来MPは血管内皮機能の低下を生じることを報告した。ラット血中には、血小板、単球、内皮細胞等からの各種由来細胞MPを含んでいるが、糖尿病時においては、血小板由来MPが、もっとも血管内皮細胞機能への影響が強いことが示唆され、来年度以降の研究は、血小板由来MPに焦点を絞り研究を進める。3.MPの内皮機能への作用機序として、NOS活性、NOSタンパク質発現の低下が認められた。一般的に、糖尿病時における内皮機能障害は、NO産生低下、プロスタグランジン類の産生異常、内皮由来過分極因子の低下などが考えられるが、本成果から内皮細胞からのNO合成に焦点が絞られる。さらにNO合成酵素のシグナル伝達は種々報告されているが、本研究から、MPは、NOSタンパク発現の低下、caveolin-1 発現異常によって内皮機能障害が生じていることが解明され、MPの内皮機能への作用機序は、NOSタンパク発現に焦点を絞り研究を発展させる。4. 糖尿病時の高インスリン、酸化ストレス、小胞体ストレスによって、血管機能障害を誘発する可能性を示唆した。申請者は、糖尿病性血管機能障害に治療効果が認められる種々の薬物等の投与によって内皮機能障害を改善する事を報告しているが、抗酸化力の強いポリフェノールであるモリンにおいて著明なNOS活性の改善、血管弛緩機能改善効果が認められたことより、MPと糖尿病性血管障害において、抗酸化剤が有力な治療薬になり得る可能性を示した。以上の結果は、糖尿病時における血管障害において、新規メカニズム、新規治療薬のターゲットを提唱し、更に、血管障害の新規バイオマーカーとしての早期診断に発展させることができる。この様な結果から、研究の焦点の絞り込みも進み、研究はおおむね順調である。
|
今後の研究の推進方策 |
血小板由来MPは、内皮機能低下、NOSタンパク質発現低下を誘発していることが明らかになったので、更なる分子機構を明らかにしたい。血小板由来MPと血管機能や、糖尿病時に異常が認められる血液因子(share stress、サイトカイン、グルコースなど)に着目し、相互比較しながらMP放出と血管機能を明らかにする。血小板や内皮細胞等からのMP放出の原因として、高血糖やshear stress、細胞内calpain活性化、細胞骨格タンパク質のリン酸化等が関与する放出メカニズムについても検討し、糖尿病時に増加する因子とMP生成放出機構を解明する。各種疾患モデル動物種、MP機能解析、血管部位、MP-血管シグナル伝達を更に進め、統合的に解析し、in vitro、ex vivo実験から、段階的に、in vivo実験、つまり実際の動物に投与するMP治療薬に繋げる。人工的に作成したMPやリポソームに、遺伝子(miRNAインヒビター;RNA mimic 、pre-miRNA発現プラスミド等)を導入し、それらをob/obマウス、db/dbマウス、GKラット糖尿病モデルに投与し、NOS、Akt等の活性、血管内皮細胞機能低下への改善効果を検討する予定である。また、MP由来細胞に遺伝子を導入し、その細胞から治療的MPを産生させ、血管機能障害が改善するかの試みも実現したい。これらの方法を用いて、治療的MPの動物における様々な生理学的な変化(血糖値、糖負荷試験、血圧、血管の病理学的な変化)についても検討しつつ、血管障害の原因となる糖尿病や高血圧、高脂血症等の根本的な治療的側面からも研究を進める。更に、本研究のMPの構造解析の結果をもとに、様々な血管障害モデルを作成し、血管障害の進行状態や血液因子とMPを比較検討し、血管障害バイオマーカーとしても情報提供をする。
|