味覚受容体はいずれも、Gタンパク質共役受容体に属している。なかでも苦味を受容するTAS2R(taste receptor type-2)は舌のみならず、肺、喉頭蓋や喉頭など気道細胞上に発現し、その生理的役割として気道平滑筋弛緩作用がある。そこで、気道収縮をトリガーとする咳誘発に重要な役割を持つ気道上皮に存在するAδ神経の終末受容体であるRARs (rapidly adapting receptors)の反応性が亢進したモデルマウスを用いてTR2R作動薬の鎮咳作用を比較検討した。RAR亢進マウスはRAR阻害薬であるモグイステインを1日1回7日間投与することで作成した。RAR亢進マウスにおいてメサコリン誘発咳嗽数は正常マウスに比べ有意に増加していた。RAR亢進マウスにおいて増加していたメサコリン誘発咳嗽数は正常マウスのメサコリン誘発咳嗽数に影響を与えない用量のTR2R作動薬投与により正常マウスにおけるメサコリン誘発咳嗽数にまで有意に抑制された。モグイステインを繰返し投与したマウス、および対照群マウスの気管平滑筋のアセチルコリンに対する反応性を検討した結果、対照群と比べて、モグイステインを繰返し投与した群のアセチルコリンに対する反応性が増強していた。一方で、未処置マウスの気管平滑筋にモグイステインを処置しても平滑筋収縮力に変化は認められなかった。以上の結果から、モグイステインは単回処置を行なっても気管平滑筋の反応性に変化を与えないものの、繰返し処置することによって気管平滑筋の反応性を増強させていることを示唆した。しかし、RAR亢進マウスの気道平滑筋におけるTR2Rの発現量を測定したところ、正常マウスと比べた有意に変化は認められなかった。これらのことより、TR2R作動薬は気道の収縮を抑制することRARの興奮性を抑制し、その結果として鎮咳作用を示すことが示唆された。
|