TRPM2は細胞の形質膜に存在し、酸化ストレスにより活性化され細胞内にCa2+を輸送する陽イオンチャネルである。平成28年度までの研究で、心臓においてTRPM2 mRNAの発現が右心房、特に大静脈洞近傍に局在していることを認め、さらに大静脈洞近傍から単離した心筋細胞でTRPM2活性が認められることを明らかにした。さらに、摘出心臓の灌流標本を作製し、心電図を指標に心機能におけるTRPM2の役割に関する検討を進めたところ、温度刺激(42℃)による心拍数の上昇が、TRPM2欠損 (KO)マウスの心臓(KO心臓)では野生型 (WT)マウスの心臓 (WT心臓)に比べて抑制されること、アドレナリンβ受容体刺激薬による心拍数の上昇もKO心臓では抑制されることを見出した。平成29年度は、抗TRPM2抗体を用いて大静脈洞近傍の免疫染色を行い、タンパク質レベルでのTRPM2発現の測定を試みたが、検出することはできなかった。そこで、in situハブリダイゼーション法により、TRPM2 mRNAと洞房結節のマーカーであるBMP10 mRNAの発現を検討したところ、同様の部位に発現が認められ、TRPM2が洞房結節に発現していることが強く示唆された。心臓におけるTRPM2の役割をさらに明らかにするために、虚血再灌流による心機能の変化について、WT心臓とKO心臓で比較した。その結果、KO心臓では再灌流時の心機能の回復がWT心臓に比べて良好であり、また不整脈の発生頻度が低いことが認められた。以上の結果より、心臓において、TRPM2は洞房結節に発現しており、生理的には心拍数の調節に関与し、虚血再灌流による病態時には、心筋障害に関与ると考えられた。
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