研究課題/領域番号 |
15K07979
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研究機関 | 同志社女子大学 |
研究代表者 |
藤井 健志 同志社女子大学, 薬学部, 教授 (80255380)
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研究分担者 |
間下 雅士 同志社女子大学, 薬学部, 助教 (30738886)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | アセチルコリン / ムスカリン受容体 / T細胞 / カルシウムシグナル / サイトカイン / フローサイトメトリー / 制御性T細胞 |
研究実績の概要 |
免疫機能調節におけるアセチルコリン(ACh)の役割を解明していく目的で、T細胞の活性化および分化におけるムスカリン性ACh受容体(mAChR)の関与を解析した。 1.mAChRの細胞内カルシウムシグナルヘの関与:T細胞におけるmAChR刺激による一過性カルシウムシグナル上昇に続くオシレーション反応および転写調節因子c-fosの遺伝子発現の増強には、カルシウム遊離活性型カルシウムチャネル(CRAC)が関与していることが明らかとなった。また、関与するmAChRサブタイプとしてM3あるいはM5サブタイプであることが判明した。 2.T細胞分化におけるAChの役割:OT-IIおよびDO11.10マウスのovalbumin(OVA)刺激によるナイーブT細胞からThl,Th2および制御性T細胞(Treg細胞)への分化誘導に対して、mAChR刺激は影響を及ぼさなかった。α7型二コチン受容体はTreg細胞への分化に対して抑制的に関与していることから、mAChRとnAChRとではT細胞の分化における役割が異なることが判明した。 3.mACbRのサイトカイン発現における役割:T細胞活性化薬フイトヘマアグルチニン(PHA)によるT細胞におけるIL-2の遺伝子およびたんぱく質の増大は、L型カルシウムチャネル遮断薬により抑制されなかったが、CRACチャネル遮断薬により抑制された。TNF-αについても同様であった。 4.T細胞活性化のmAChR遺伝子発現に及ぼす影響:mAChR遺伝子発現は、抗CD3抗体十抗CD28抗体、あるいはPHAによるT細胞の活性化により減少する。このメカニズムにはMAPK-ERK経路が関与していることが明らかとなった。 以上のことから、mAChRは直接的にナイーブT細胞の分化には関与していないが、分化誘導の初期段階において間接的に関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞内カルシウム応答および転写調節因子c-fos遺伝子発現増強の結果から、mAChR遺伝子発現は、T細胞の活性化の初期段階(数時間以内)では重要であることが判明している。しかしながら、分化誘導が行われた頃(数日)にはすべてのmAChRサブタイプの遺伝子発現は減弱していることが明らかになった。したがって、mAChRは、ナイーブT細胞の分化に直接は影響しない可能性が徐々に明らかになってきている。そこで、最終年度は分化誘導の初期段階においてmAChRが関与している可能性についても検討したい。T細胞活性化に伴うmAChR遺伝子発現量の時聞的な変化および関与する情報伝達系は、今回初めて見出された新知見である。 細胞内カルシウム応答に関与するmAChRサブタイプの検討のために、siRNAあるいはshRNAを用いた各mAChRサブタイプノックダウン細胞の作製し検討したが、特定のサブタイプの関与の証明はできなかった。 最終年度では、mAChRの内因性リガンドであるACh合成・放出量の測定と合わせてT細胞分化におけるmAChRの役割をより解明していく予定である。 研究成果については、国際学会(米国神経科学会)、国内学会(日本薬学会、日本薬理学会)および査読付き欧文雑誌(Life Sciences誌に2報、Journal of Pharmacological Sciences誌に1報)において発表できた。 今年度も国内学会を中心に発表を予定している。また、査読付き欧文誌に投稿を予定している(投稿先未定)。
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ順調に進捗していることから、申請当初の研究計画をほとんど変更する必要はないと考えている。他方、免疫機能の研究に有用な2系統のマウス(D011.10およびOT-TT)を購入し、繁殖・維持を開始し、抗原提示プロセスヘのmAChRの関与についても検討している。さらに、昨年度は新たに研究室内にもフローサイトメーターを導入したため、研究の進捗状況が向上している。また、T細胞分化におけるnAChRの役割を解析する他のプロジェクトも同時に推進していることから、本研究プロジェクトとの比較検討から免疫機能調節メカニズムにおけるアセチルコリンの役割が一層解明できるものと考えている。 研究に従事する研究者の人員確保は研究のさらなる推進に重要であるが、平成29年度は共同研究者・間下雅士博士(同志社女子大学)、連携研究者・川島紘一郎博士(北里大学)に加えて、研究協力者として小野史郎博士(大阪大谷大学)および16名(5年次生9名、4年次生7名)の卒業研究生との研究が可能な状況になっている。さらに、9月上旬より3年次生も7名が研究に加わる予定になっており、新たな研究成果が随時得られている状況であることから考えても、一層研究を推進できる環境が整っている。 現在は、リンパ球のモデル系(白血病細胞株)およびマウスリンパ球を用いて検討しているが、ヒト末梢血リンパ球(倫理的な問題をクリアしたものを購人する)を用いた検討も開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で遂行するのに使用する標準的な試薬1品目分ぐらいが未使用となった。購入を予定した抗体の納期が2016年度の使用期限を過ぎてしまう恐れがあったために購入を控えたためにこのような事態になってしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究課題を遂行するために必要な最新の設備・備品などはすべて整備されている。さらに、平成28年度には、別の資金で新たにフローサイトメーターを研究室内に導入した。したがって、平成29年度についても研究費は試薬および消耗晶の購入に充てる。
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