これまでに強大音響曝露によって誘発される聴覚機能障害では、マウス内耳内でチロシンニトロ化蛋白質が増加することを明らかとした。本研究では、感音難聴発症メカニズムにおける一酸化窒素(NO) の関与を解明する目的で、NOC-18およびSIN-1の内耳蝸牛内局所投与による内耳聴覚機能障害について解析した。【方法】ddY系雄性マウスの蝸牛内正円窓にNOC-18およびSIN-1を1 時間留置し、蝸牛内に浸透させた。NOC-18およびSIN-1処理後1、5 時間、1、2、7 日での各周波数(4、12、20 kHz)について聴性脳幹反応(ABR)を指標に聴力を測定した。次に、NOC-18およびSIN-1処理7 日目に有毛細胞を摘出しファロイジン染色を行った。また、同日の内耳蝸牛切片を作成し、ヘマトキシリン染色により組織学的変化を解析した。さらに、SIN-1処理1時間後のマウス蝸牛外側壁細胞間コミュニケーション機能について、光退色後蛍光回復法(FRAP assay)により解析した。【結果】聴力測定の結果、NOC-18およびSIN-1処理群では聴力の悪化が確認できた。しかしながら、ファロイジン染色では、有毛細胞に形態学的変化は認められなかった。また、ヘマトキシリン染色においても組織学的変化は認められなかった。さらに、SIN-1処理は1 時間以内に聴力悪化を引き起こすが、同時間経過後のらせん靭帯においてFRAP assayを行ったところ、レーザー照射後に蛍光強度の回復がみられた。【考察】以上の結果から、NOおよびその生成物は内耳内の組織学的および機能的変化を起こすことなく聴力を悪化させることが明らかとなった。すなわち、内耳内でのNO産生が感音性難聴の発症メカニズムの一部に関与する可能性が示唆され、感音難聴の治療において、内耳内NOシグナルが新たな創薬・治療ターゲットとなりうることが期待される。
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