研究課題
当研究室で、代表研究者らによって作製され、マウスにおいて抗原特異的免疫抑制作用を示したマウス抗卵白アルブミンモノクローナル IgA の重鎖および軽鎖可変部の遺伝子配列を決定した。これにより、遺伝子工学的にヒトマウスキメラ抗卵白アルブミンモノクローナル IgA の作製が可能となった。マウス抗卵白アルブミンモノクローナル IgA の免疫抑制作用に、部分的ではあるものの抗原の中和、それに伴う B 細胞の活性化の抑制が関与していることを明らかにした。合わせてマウス抗卵白アルブミンモノクローナル IgA が、結合した単量体卵白アルブミンを血中から膀胱(尿中)へと排泄させず、血中に留めるような作用、すなわち抗原分布に対しても特徴的な作用を示すことを明らかにした。IgA の免疫抑制作用機序の1つを明らかにするとともに、抗原分布については IgA の新たな生理作用を示した点で意義深く、その結果は査読付き学術論文として公開された。DBA/1J マウスを用いて明らかにされていたマウス抗卵白アルブミンモノクローナル IgA の免疫抑制作用が Balb/c マウスおよび SD ラットにおいても認められること、すなわち IgA の免疫抑制作用は、系統、種を越えた作用であることが示唆された。さらに、マウス、ラットいずれにおいても、Th1 および Th2 免疫応答双方に対して抑制作用を示すことを明らかにした。IgA を用いたヒトの治療を期待させるその結果は、査読付き学術論文として掲載されることが決定している。
2: おおむね順調に進展している
ヒトマウスキメラ抗卵白アルブミンモノクローナル IgA の作製については、その元になるマウス抗卵白アルブミンモノクローナル IgA の重鎖および軽鎖可変部の遺伝子配列の決定まで終了した。当初の予定では、1 年目終了時点で、キメラ抗卵白アルブミンモノクローナル IgA の作製を終了している予定であったが、研究費などの都合により遺伝子配列の解析までとなった。マウス抗卵白アルブミンモノクローナル IgA の免疫抑制作用機序の解析については、当初その作用に関与する分子の同定を行う予定であったが、網羅的に研究を行うために抗原の体内分布に対するマウス抗卵白アルブミンモノクローナル IgA の効果について解析したところ、IgA により認識する抗原の血中から尿中への排泄が抑制されるという、これまでに報告されていない結果が得られた。そこで、ひとまず免疫抑制作用に関与する分子の同定から、解析対象を抗原の分布の変化と免疫抑制作用との関連性へとシフトした。当初の解析予定とは異なるものの、マウス抗卵白アルブミンモノクローナル IgA が B 細胞と抗原との相互作用を抑制することにより、免疫応答を負に制御することが明らかとなった。また、マウス抗卵白アルブミンモノクローナル IgA がラットの Th1 および Th2 免疫応答に対して種を越えて免疫抑制作用を示すことを明らかにし、2 年目に解析する予定であった目標の一部を 1 年目において達成した。以上のことから(2)おおむね順調に進展している を選択した。
マウスにおいて抗原特異的免疫抑制作用を示したマウス抗卵白アルブミンモノクローナル IgA の重鎖および軽鎖可変部の遺伝子配列が得られたので、それを基にヒトマウスキメラ抗卵白アルブミンモノクローナル IgA の作製を遺伝子工学的に実施する。作製後は、ヒトマウスキメラ抗卵白アルブミンモノクローナル IgA が、「種を超えて」免疫抑制作用を示すか解明する。In vivo では、ヒトとは異なり FcαRI を持たないマウスと、ヒト同様に FcαRI を有するラットの個体を用いて解析する。In vitro では、マウス、ラットおよびヒト培養細胞を用いて解析する。また、本研究によりマウス抗卵白アルブミンモノクローナル IgA が認識する抗原の体内分布、とくに血中濃度の上昇と尿中濃度の減少を引き起こすことが初めて明らかになったため、新たに作製するヒトマウスキメラ抗卵白アルブミンモノクローナル IgA についても、認識する抗原の体内分布に与える影響について解析する。マウス抗卵白アルブミンモノクローナル IgA の免疫抑制作用機序の解析については、当初の目的に立ち返り、免疫抑制作用を媒介する新規受容体および細胞内情報伝達経路について、マウス個体およびマウス培養細胞を用いて同定する。シアル酸を欠損したマウス抗卵白アルブミンモノクローナル IgA を作製し、IgA の糖鎖構造が免疫抑制作用にどのような役割を果たしているかを中心に解析を進める。マウスにおいて重要な IgA の標的分子が同定された場合、その情報を利用して、ヒトにおいて、免疫抑制作用を媒介する IgA の標的分子および細胞内情報伝達経路を明らかにする。
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Yakugaku Zasshi
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