研究課題/領域番号 |
15K07986
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研究機関 | 福山大学 |
研究代表者 |
渡邊 正知 福山大学, 薬学部, 准教授 (30306203)
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研究分担者 |
田村 豊 福山大学, 薬学部, 教授 (30217202)
門田 麻由子 福山大学, 薬学部, 助手 (10389075)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | SUMO化修飾 / 冬眠 / 虚血耐性 / 体温 |
研究実績の概要 |
昨年までに、自然の虚血耐性モデルと考えられている冬眠ハムスターにおいて、体温低下レベルに依存してSUMO-2/3化修飾レベルが著しく増加することを見出した。そこで本年は、次の検討を行った。 1、冬眠時にSUMO-2/3化修飾を受ける核内標的分子の同定を試みた。作成した抗SUMO-2/3抗体を用いた免疫沈降やSeizeX、あるいはSUMO-QAPTUREなどを駆使したが、冬眠脳サンプルからは銀染色レベルで可視化できるほどの標的分子を精製することができず、残念ながら現時点では直接的に同定できていない。 2、脳虚血時の神経保護作用が示唆されているSUMO-2/3化修飾分子群から、冬眠時のSUMO-2/3化標的分子の候補を複数選び、その可能性を検証した。いくつかのSUMO-2/3化修飾分子に関しては、冬眠との関連性を見出すことはできなかった。一方、pre-mRNAのスプライシングを制御するタンパク質分子について検討したところ、冬眠動物においてSUMO化修飾様の分子量シフトが認められた。 3、冬眠時におけるSUMO-2/3化修飾の制御機構を明らかにするために、関連する分子群の発現量解析を行った。ユビキチン様タンパク質(UBLs)化修飾の基質となるSUMO-1, SUMO-2, SUMO-3, UbiquitinのmRNA発現量は、コントロール、寒冷暴露および冬眠群との間で顕著な差は認められなかった。また、SUMO E2結合酵素のUbc9は、mRNAレベルでもタンパク質レベルでも三群間において発現量の有意な差は認められなかった。これらの結果から、冬眠時におけるSUMO-2/3化修飾の亢進は、脱SUMO化(SENP)酵素活性の低下に起因することが示唆された。 以上より、冬眠時におけるSUMO-2/3化修飾の標的分子候補を捉えることに成功し、またその制御機構の一端を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、次の目標「冬眠時に誘導されるSUMO化修飾タンパク質の同定」、「冬眠動物におけるSUMO化/脱SUMO化の制御機構の解明」、さらに「体温制御に関わる新たな分子の探索」を掲げた。 「冬眠時に誘導されるSUMO化修飾タンパク質の同定」に関しては、標的分子を直接同定することはできなかったものの、その候補分子を捉えることに成功した。 一方、「冬眠動物におけるSUMO化/脱SUMO化の制御機構」に関しては、冬眠時におけるSUMO化修飾の亢進は、SUMO化反応の活性化ではなく脱SUMO化反応の抑制に起因することが示唆された。 さらに、「体温制御に関わる新たな分子の探索」を行った。その結果、ガス状分子である硫化水素がオピオイド作動性神経の賦活化を介した体温低下を制御することが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の知見を活かし、標的候補分子の冬眠サイクルにおける発現量解析とSUMO-2/3化修飾レベル解析、さらに標的候補分子のSUMO-2/3化修飾部位解析、局在解析、機能解析(DNA,RNA相互作用解析)などから、冬眠時における標的分子を確立するとともにそのSUMO-2/3化修飾に伴う機能変化を明らかにする。 また、冬眠動物における脱SUMO化酵素活性を明らかにし、SUMO-2/3化修飾レベルの亢進メカニズムを明らかにする。 今年度、脳虚血時と冬眠時ではSUMO-2/3化標的分子が異なることが示唆された。そこで、先ずはハムスターを用いた脳虚血モデルを確立し、その上で脳虚血時に亢進するSUMO-2/3化修飾分子群と、冬眠時(虚血耐性)に亢進するSUMO-2/3化修飾分子群とのディファレンシャル・ディスプレイ解析を行い、神経保護や虚血耐性におけるSUMO-2/3化修飾分子群を特徴付ける。
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