研究課題/領域番号 |
15K07994
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
田浦 太志 富山大学, 大学院医学薬学研究部(薬学), 准教授 (00301341)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 生合成 / メロテルペノイド / ダウリクロメン酸 / エゾムラサキツツジ |
研究実績の概要 |
本年度は昨年度クローニングに成功したダウリクロメン酸生合成経路のポリケチド合成酵素およびプレニル転移酵素について生化学的解析を検討した。 1)ポリケチド合成酵素(RdORS)に関する解析:大腸菌で発現したRdORSを単一に精製し、酵素反応を検討した。本酵素はacetyl-CoAおよびmalonyl-CoAからオルセリン酸を合成すると推察されたが、実際の反応生成物は80%以上が脱炭酸体のオルシノールであり、これに加えて微量のオルセリン酸、フロロアセトフェノン及び2種のラクトン化合物を生成した。植物ポリケチド合成酵素に関しては研究が進んでいるものの、acetyl-CoAを開始基質として単純フェノール類を合成する例はRdORSが初めてであった。また本酵素は、既知のポリケチド環化酵素(大麻のolivetolic acid cyclase)との共触媒でオルセリン酸を合成した。このことからRdORSは植物において未知のポリケチド環化酵素とともにオルセリン酸の合成に関わると推察された。この他、分子モデリングによる酵素活性部位の構造的特徴および基質特異性との関連、さらに植物における部位特異的発現の解析など基礎的な諸性質を総合的に検討した。 2)プレニル転移酵素(RdPT)に関する検討:酵母Pichia pastorisを宿主として組み換え酵素を発現した。本酵素は膜タンパクであるため、組み換え酵母のミクロソーム画分を酵素源として諸性質を検討した。特に基質特異性に関し、本酵素はオルセリン酸をprenyl acceptorとして、ゲラニル基、ファルネシル基さらにはゲラニルゲラニル基の転移能力を有することを確認した。既知の植物二次代謝関連プレニル転移酵素はジメチルアリル基あるいはゲラニル基に特異的なものがほとんどであり、本酵素の幅広い基質特性は注目に値する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は昨年度遺伝子クローニングに成功したポリケチド合成酵素及びプレニル転移酵素について組み換え酵素を用いた生化学的解析を遂行した。ポリケチド合成酵素に関しては基礎生化学的性質を総合的に解明し、これを印刷公表することが出来た。またプレニル転移酵素に関しては発表に至っていないもののユニークな基質特異性を含め基礎生化学的性質を明らかにするに至っており、おおむね順調に進行していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はダウリクロメン酸(DCA)生合成経路を構成する遺伝子の異種生物への導入によるダウリクロメン酸の生物生産を主たる目的として検討を行う。本研究では先にクローン化したDCA synthaseに加え、RdORSおよびRdPTの遺伝子をクローン化したが、RdORSはオルセリン酸の合成にサイクラーゼの存在を必要とする。これを考慮して以下の方針で実験を行う。 1)DCA synthase, RdPT, RdORSに加え、大麻のolivetolic acid cyclase遺伝子を酵母に導入し、発現することによりDCAの生産を実現する。発現ベクターとして容易に多重導入が可能なpESCを応用する計画である。またDCAの生産を確認した後に宿主側を含めた基質供給遺伝子、すなわちFPP synthase等の高発現による生産量の向上を検討する。 2)近年DCA生合成の直接の基質であるgrifolic acidに関し、その生合成クラスターの遺伝子クローニング及び麹菌を宿主とする効率的生産システムが確立している(Li et al., Chembiochem 17: 904-907, 2016)。そこで本麹菌のシステムにDCA synthase遺伝子を導入することにより、微生物と植物の生合成遺伝子を組み合わせたハイブリッド生産システムを確立する。 3)RdORSはオルセリン酸の合成にサイクラーゼの存在を必要とすることから、エゾムラサキツツジにおいて未知のサイクラーゼ遺伝子が発現しているものと予想される。現在、機能発現スクリーニングを基盤としてエゾムラサキツツジからのサイクラーゼ遺伝子のクローニングに着手しており、本遺伝子が得られ次第、上記1)の発現システムに応用する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は所要額から実支出額を差し引いた残額が91円であり、若干の残額があったもののほぼ使用計画に従い、適正に執行できたと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度残額は次年度、おもに消耗品費の一部として適正に使用する計画である。
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