研究計画に従い、がん微小環境に選択的に作用する海洋天然物を基軸とした創薬化学研究として、グルコース飢餓環境選択的がん細胞増殖阻害活性を有する新規ポリケチドbiakamide類について、作用メカニズム解析を検討した。前年度の検討で得られた構造活性相関の知見をもとに、チアゾールアミド部位にアルキンタグを、末端アシル基部分に光反応性基を導入したフォトアフィニティープローブ分子を設計・合成し、これを用いた蛍光イメージングによって化合物の細胞内局在を解析した。PANC-1細胞に本プローブを添加し、細胞固定を行った後、Alexa488標識したアジド化合物で処理し、蛍光顕微鏡で観察した結果、ミトコンドリア部が選択的に蛍光を示すことを明らかにし、当初の予想通り、化合物がミトコンドリアに作用していることを見いだした。また、この細胞破砕液から得られたタンパク質についてSDS-PAGEを行った結果、特定の分子量のタンパク質が選択的に標識されていることを強く示唆する結果を得た。その他の生化学的な検討も含む総合的な解析から、biakamide類がミトコンドリア呼吸鎖複合体Iに作用してエネルギー生産を阻害するため、グルコース飢餓環境選択的な増殖阻害作用を示すものと結論づけた。 一方、低酸素環境選択的がん細胞増殖阻害物質furospinosulin-1については、前年度より懸念されていた、低酸素環境における増殖阻害試験の再現性が取れないままとなっており、化合物の正確な評価が行えない状態を解決できなかった。今後、類似の活性評価を行っている研究者との共同研究も視野に入れ、改めて検討したい。
|