研究課題/領域番号 |
15K08013
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研究機関 | 公益財団法人微生物化学研究会 |
研究代表者 |
和田 俊一 公益財団法人微生物化学研究会, 微生物化学研究所, 研究員 (40450233)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | レンツトレハロース / トレハロース / 神経変性疾患 / アルツハイマー病 / オートファジー |
研究実績の概要 |
レンツトレハロース類の神経変性疾患治療薬としての開発に関して、化合物の大量供給が必要であるため、発酵生産と有機化学的合成法について、それぞれ共同研究者とともに検討を行った。発酵生産に関しては培地の種類を中心として培養条件を検討し、開始当初に比べて数倍程度の生産効率を得るに至った。また、有機合成に関しては、レンツトレハロースAの合成法を開発し、論文発表を行った。治療効果の評価系としてマウスでの動物実験モデルが必要であったが、アルツハイマー病のモデルとしてはヒトでの病状をよく再現する第三世代のモデルマウスを理研より入手し繁殖に成功した。認知機能評価試験としてY迷路の系を導入し、物体認識試験についても導入検討中である。他の病気のモデルとしては、動物実験施設のキャパシティーの問題から、遺伝子変異マウスの導入は今のところできないが、薬剤投与によるパーキンソン病とハンチントン病モデルマウスの作製、利用について検討中である。レンツトレハロースによるオートファジー誘導機構の解明に関しては、ビオチン化レンツトレハロースB結合タンパク質の探索より行った。しかしながら、特異的に結合するタンパク質は得られず、標的分子との結合が弱いことや膜タンパク質が標的分子であるため可溶化されにくいことなどが考えられた。また、レンツトレハロース存在下で培養した細胞ではグルコースの消費量が落ちることを確認したため、レンツトレハロース類がグルコーストランスポーターを弱く阻害する可能性が考えられた。この仮定にそって検討を行い始めたところ、今年に入り、トレハロースによるグルコーストランスポーター阻害について述べた論文が他所のグループより発表された。このため、レンツトレハロース類に関してもグルコーストランスポーターの阻害によるグルコースの取り込み抑制がオートファジーの誘導につながることが裏付けられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オートファジーの誘導機構の解析に関しては、他所のグループによるトレハロースの報告に後れをとる結果となってしまったものの、ビオチン化レンツトレハロースBの利用による標的タンパク質の探索実験や細胞のグルコース消費などに関して、当初予定していた実験は一通り行い、同様の結論を得るに至ったため、機構の解明自体に関しては重要な部分がほぼ終了したものと言える。今後は治療効果の評価実験とそのためのレンツトレハロース大量生産が必要となる。大量生産に関しては、当初予定していた発酵生産法の検討以外に有機合成法を検討し、それを確立することが出来た。またいくつかの類縁体化合物の合成法も確立した。レンツトレハロースによる各種神経変性疾患の治療効果の評価に関しては、まずは最重要といえるアルツハイマー病を中心として検討することとし、モデルマウスの導入を図った。現在のところ最もヒトの症状をよく再現しうるものと考えられる理研の第三世代のモデルマウスを導入し、繁殖させることが出来た。また、このマウスを用いた認知機能の評価試験系も既に2種類導入、確立の目途が立っている。アルツハイマー病以外には、薬剤投与によるパーキンソン病およびハンチントン病モデルマウスの作製を検討中である。培養細胞での評価系としてはPC12細胞の分化による神経細胞化のシステムを導入するとともに、ニューロフィラメントを発現するがん細胞株をいくつか見出し、それらを用いてレンツトレハロースによる神経細胞死抑制効果の評価試験が行える状態を整えた。これらのことから、当初予定していた実験についてはネガティブな結果のものもあったものの、実験自体は大体予定通り行っており、また有機合成法に関して当初の予定を超えて進展した部分もあったため、全体としてはおおむね順調に推移しているものと言える。
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今後の研究の推進方策 |
大量合成に関して、有機合成法が確立できたものの、現段階ではその過程で使用する触媒が高価であるため、より安価で大量合成可能な方法を検討する必要がある。また、現在有機合成により6種類ほどの類縁体化合物を合成し、幾つかのものについてはレンツトレハロースと同等の生物活性を示すことを確認しているが、安価に合成可能なものがあればそちらの化合物を今後開発対象としていくことも考える。また、発酵生産に関しては、現在までに変異原物質を用いた高生産株の育種法を試していないため、これを試す。当研究所で過去に行われた別化合物生産菌での育種例では、活性物質の生産量を10倍以上あげたケースも珍しくないため、レンツトレハロースの高効率生産達成にも期待が出来る。レンツトレハロースは、生合成系がシンプルであることが予想され、その主反応を司ると思われるジメチルアリルトランスフェラーゼ遺伝子と思われるものを既に発見しているため、今後は大腸菌や真菌類でその遺伝子を異所発現させて、別の菌や精製酵素によるレンツトレハロースの大量生産の検討にも力をいれていく。動物実験での評価系に関しては、まずは安価に大量に手にはいるトレハロースを用い、アルツハイマーモデルマウスでの治療効果を確認する。十分な量のレンツトレハロースあるいは類縁体化合物が手に入り次第、そちらの検討も行い、余裕をみてパーキンソン病やハンチントン病治療評価実験を行っていく。また各種の神経様培養細胞を用いてレンツトレハロースによるアミロイドβの毒性緩和作用評価試験や抗酸化作用などの評価を行う。これらによりレンツトレハロースの神経変性疾患治療薬としての開発を検討していくとともに、検討過程で導入したマウスによる動物実験系や、培養細胞による評価系を用いて、微生物化学研究所が保有する放線菌代謝産物より、他の神経変性疾患治療薬候補化合物の探索も行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は実験系の立ち上げのためにPCR装置、遠心分離機、DNA電気泳動装置、ビデオ撮影装置類、およびローテーターなどの機器類や培養細胞株や実験用マウスなどを購入してきた。また、技術習得のための研修や学会発表のための出張の旅費を支払った。これらの項目一つ一つについては高価なものが多かったため、事前に大まかな出費を計算していたが、キャンペーンや業者によるディスカウントが適用されるケースがあったため、当初の予定より安価で購入が可能なものが多かった。実際に購入、支払いした項目以外には、初年度内に即時の購入、支払いが必要な項目が特に無く、保管による劣化や購入物品の放置などの可能性を考え、次年度に繰り越した方が賢明と考え、上記のような次年度使用額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
二年目の予算は初年度より低い額で申請している。しかしながら、研究の進展にともなって、超低温フリーザーやエレクトロポレーションシステム、あるいはマウス行動解析システムなどの新たな機器類の購入や追加の培養細胞株や実験用マウスの購入が必要となっている。また、消耗品類に関しても、遺伝子工学実験ツール類、マウスの組織染色実験関連用品、あるいは液体クロマトグラフィー用樹脂、カラムなど、初年度にはあまり行っていなかった実験内容に対応するものを購入する必要も生じてくる。学会発表についても初年度よりも回数を増やしたいと考えているので旅費も必要である。これらのことから、実際のところ、より多くの予算があるのに越したことは無い。次年度使用額として繰り越される上記金額については、当初の予算に加えて、これらの購入、支払いに充てる予定である。
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