研究実績の概要 |
ビタミンD受容体(VDR)は1,25ジヒドロキシビタミンD3を内在性リガンドに持つ核内受容体であり、カルシウム恒常性維持や細胞分化誘導、増殖抑制、免疫など多彩な機能を持つ。VDRリガンドはくる病や骨粗鬆症、乾癬の治療薬として臨床応用されているほか、抗がん剤などへの応用も期待されている。医薬品への応用ではこれらの作用の分離が重要であるが現在臨床応用されているものはいずれもビタミンD3の誘導体であり、作用分離が不完全であり不安定なセコステロイド構造を持つため取り扱いが煩雑である。それらの解決にはセコステロイド構造を持たないVDRリガンドが有効である。申請者は弱いながらもVDRアゴニスト活性を持つリトコール酸(LCA)に着目し、X線結晶構造解析を行いVDRとLCA誘導体の相互作用機構を明らかにした。それに基づき医薬品への応用を目指しLCAをリードとした新規VDRリガンドの開発を目指した。 これまでの研究からLCAの側鎖カルボニル基は活性に必須であると考えられる。そこでLCAの3位を修飾した化合物群の合成を計画した。3位への炭素官能基の立体選択的導入にはシアン化物を用いたSN2反応により3-beta体を、シアノ基を還元したアルデヒドの異性化により3-alpha体をそれぞれ選択的に合成した。これらの中間体から1,25-ジヒドロキシビタミンD3を模倣した3級水酸基を含むアルキル基を導入した化合物を合成した。活性をヒト前骨髄球性白血病細胞HL-60の分化誘導能により評価したところいずれの化合物も既知のLCA誘導体に比較し高い活性を示し、3位の修飾がLCA誘導体のVDR活性の向上に有効であることを明らかにした。特に3-alpha-2-ヒドロキシ2-メチルプロピル体は1,25-ジヒドロキシビタミンD3に匹敵する活性をもち、医薬品への応用に十分なVDR活性を持つLCA誘導体の開発に成功した。
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