研究課題
特定の疾患状態にある組織を検出する手法は、診断、治療において重要となる。そのため濃度、活性が向上している蛋白質、遺伝子変異等のバイオマーカーを探索する研究がこれまで盛んに行われてきた。しかし、マーカーとして見出された分子種が疾患組織のみで発現していない場合があることや、検出を行うために酵素反応等が必要であることから瞬時に検出することが難しい等の問題があった。そこで本研究では、疾患組織特異的に起こるpH、粘性、温度等の環境変化に着目し、こうした変化を検出する新規蛍光センサーの開発を行った。具体的には、特定のpH領域や粘性の変化を検出するセンサーの開発を行った。平成27年度は特に、特定のpH領域を検出する蛍光センサーの開発を行い、その結果、pH 6付近というガン組織の検出に有用なセンサーの開発に成功した。開発したセンサーを生きた細胞に用いたところ、細胞内pHを6とした細胞選択的に強い蛍光を示し、開発したセンサーが生細胞においても機能することを明らかにした。一方、開発したセンサーは、蛍光団クマリンを母核としているため、励起波長が紫外光領域にあるという問題がある。そこで蛍光団をキサンテンと変換し、同様の機能を持つセンサーの開発を行った。その結果、490 nmという可視光で励起が可能なpH 6付近の環境を検出可能なセンサーの開発に成功した。
2: おおむね順調に進展している
前項で述べたように、我々は既に可視光励起が可能でpH 6の環境を検出可能な実用的な蛍光センサーの開発に成功している。本センサーは誘導体化により、様々な分子と複合体を形成させることが可能である。すなわち、疾患組織の高発現している酵素、受容体各々に対する基質、リガンド分子、または抗体との複合体を開発することが可能である。こうした分子は、発現している蛋白質と環境変化という二つのスイッチにより、より選択的な検出が可能になる。すなわち、本研究の目的とする、特定の疾患状態にある組織を検出する蛍光センサーとして極めて有用な分子となる。また、我々はこれまでに、粘性変化という環境変化を検出する蛍光センサーの開発にも成功している。本センサーもまた、誘導体化および蛍光団の変換により、波長の長波長化したセンサーに加えて、検出できる粘性の領域が異なるという、興味深い機能を持つセンサーを得ることにも成功している。こうしたこれまでにない有用な機能を持った蛍光センサーを産み出していることは、本研究の順調な進捗を示している。
前項までで述べた、pH変化、粘性変化を検出する蛍光センサーを実際の疾患イメージングへと展開する研究を行う。例えば、がん組織においては、葉酸受容体、様々なペプチダーゼなどの酵素が発現していることが報告されている。そのため、これらの受容体に対するリガンド分子または抗体等とセンサーとの複合体を開発し、疾患イメージングへの展開を目指す。また粘性に関しては、循環器系の疾患、アルツハイマー病等において通常と比べて変化することが報告されている。そのためこうした疾患組織に集積しやすい分子団や、さらに特定の細胞内小器官、特定の組織への集積能を持つ分子団との複合体を合成し、より有用なセンサーへと展開する。さらに、環境変化に応じて蛍光特性が変化する蛍光センサー群を構築し、疾患のバイオマーカーとなりえる新たな環境変化の探索を試みる。具体的には、pHに応じてプロトン化、脱プロトン化が起こすアミノ基、水酸基を、粘性、温度の影響を受ける分子運動を起こす構造等を蛍光物質の様々な置換位置に導入し、環境応答蛍光センサー群を構築する。病態組織、正常組織に適用し、その蛍光像を比較、検討することにより、異なる蛍光変化を示すセンサーを抽出する。センサーの環境応答能を精査することにより、疾患特異的な環境変化を同定する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
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