研究課題
結核菌の病原性の発現には、脂質に富む細胞壁の構造が重要である。近年、結核菌細胞壁のリンカー部位に存在するL-ラムノースが細胞壁の主要構成成分である複合体形成に必須であることが報告され、結核菌増殖におけるL-ラムノース代謝の重要性が次第に明らかになってきている。これまでに我々は、インドリチジン型イミノ糖であるL-swainsonineが同じ部分構造を持つ単環性ピロリジン型イミノ糖L-DIMと比べ約170倍も強いα-L-ラムノシダーゼ阻害を示すことを見いだし報告している。そこで今年度は、ピロリジン型イミノ糖の環状化に着目し、L-DMDPからL-DMDP cyclic thioureaへの変換がα-L-ラムノシダーゼ阻害活性に及ぼす影響について検討をおこなった。その結果、親化合物であるL-DMDPは、α-L-ラムノシダーゼに対して阻害を示さなかった。一方、L-DMDP cyclic thioureaへの変換により阻害活性が発現し、更にthiourea部位にアルキル鎖を導入すると、アルキル鎖の伸長に伴い阻害活性も上昇した。しかし、β-グルコシダーゼを始めとする他のグリコシダーゼに対する阻害活性も上昇する傾向が認められたため、導入する置換をベンジル基に代えたところ選択性が明らかに向上した。更にベンゼン環上に種々の置換基を導入し比較検討した結果、最終的に強力かつ選択的な阻害剤として3’, 4’-dichlorobenzyl L-DMDP cyclic thioureaを見いだした(IC50値0.23 μM)。これは、基質類似体である5-epi-deoxyrhamnojirimycinの46倍も強い値である。また、L-ラムノシダーゼに対する結合様式をLineweaver-Burk plotsにより評価した結果、本化合物は競合阻害を示すことも明らかになった。以上の結果から、ピロリジン型イミノ糖の環状化は、従来までの単環性化合物を中心とした阻害剤デザインに代わるα-L-ラムノシダーゼ阻害剤開発の新たな治療戦略であると言える。
2: おおむね順調に進展している
本研究課題の目標である結核菌増殖とL-ラムノースとの関連性および生体におけるL型糖の役割を解明するためには、阻害剤となるイミノ糖の母核構造を決める必要がある。昨年度までは、ピロリジン型イミノ糖である1,4-Dideoxy-1,4-imino-L-mannitol (L-DIM)を中心構造とした誘導体展開を行ってきたが、今年度、ライブラリー化合物を用いたスクリーニングを行っていくうちに、L-ラムノシダーゼの活性中心部は、当初想像していたよりも柔軟性が高く、環構造の変化にも対応している傾向が認められた。そこで、同じピロリジン型イミノ糖であるL-DMDPを親化合物とする、L-DMDP cyclic thioureaへの変換を試みたところ、既存の1-デオキシ-L-ラムノシダーゼ (DRJ)を上まわる阻害を示すという知見を得た。これは、当初の想定を超えた阻害の強さであり、今後更に検討を行っていく予定である。
今年度の成果により、L-DMDPを親化合物とする、L-DMDP cyclic thioureaへの変換がL-ラムノシダーゼに対し、非常に効果的である事が明らかになった。今回見いだされたL-DMDP cyclic thioureaは、人工的に環化されたイミノ糖部分に加え、長いアルキル側鎖部分という2つのパーツから構成されている。従って、今年度の成果を更に発展させていくために今後は、ピペリジン型イミノ糖の環化など、環構造のサイズを更に変え最適化を行うと共に、アルキル側鎖部位が阻害活性発現にどの様に寄与しているのかを解明していく予定である。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件)
Bioorg. Med. Chem.
巻: 25 (1) ページ: 107-115
10.1016/j.bmc.2016.10.015