研究実績の概要 |
“圧倒的な二重鎖形成能”をコンセプトとして、糖部架橋型人工核酸2',4'-BNA/LNAと三環性シトシン型人工塩基 (フェノキサジン塩基) を融合したBNAP (2',4'-Bridged Nucleic Acid with Phenoxazine base) を設計し開発してきた。圧倒的な二重鎖形成能の獲得は、オリゴ核酸への修飾数の抑制・遺伝子発現阻害の大幅な向上が期待され、核酸医薬として画期的な分子技術の創出につながるものと考えられる。 初年度はBNAPヌクレオシドの合成とオリゴヌクレオチドへの導入、及び基礎的物性評価を主に実施した。BNAPの合成経路を種々検討した結果、最適条件の確立とBNAPヌクレオシドの合成に成功した。DNA自動合成機を用いてBNAPをオリゴヌクレオチドへ導入を試みたところ、首尾よく導入が可能であった。BNAPを組み込んだオリゴヌクレオチドの相補鎖核酸に対する二重鎖形成能を評価したところ、BNAPは適切な前後配列下で、2',4'-BNA/LNA、及びフェノキサジン人工塩基を上回る優れた二重鎖形成能を有することが明らかとなった。そこでBNAPの優れた二重鎖親和性を詳細に解明すべく、円二色性 (CD) スペクトル測定、及び熱力学パラメータを算出したところ、BNAPは2',4'-BNA/LNAとフェノキサジン塩基の性質を併せ持つことが明らかとなった。またBNAPオリゴヌクレオチドの分解酵素に対する安定性を評価したところ、BNAPは天然型核酸や2',4'-BNA/LNA, フェノキサジン塩基よりも有意に耐性が向上することが分かった。以上、BNAPは核酸医薬に対して有望な基礎特性を有することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実施計画に基づき、平成27年度は以下の4点を重点的に検討した。(1) BNAPヌクレオシドの合成と反応工程の最適化:BNAPヌクレオシドの合成経路、反応条件、保護基の最適化を図ることで、安定に大量供給可能な合成法を確立した。(2) BNAPをオリゴヌクレオチドへ導入:DNA自動合成装置を用いてBNAPをオリゴヌクレオチドへ導入を試み、縮合時間を僅かに延長するのみで効率よく導入が可能であった。また複数・連続導入も問題なく対応可能であった。(3) BNAPオリゴヌクレオチドの二重鎖形成能評価:融解温度 (Tm) 測定によりBNAPオリゴヌクレオチドの相補鎖DNA、RNAに対する二重鎖形成能を評価したところ、適切な前後配列下でBNAPは2',4'-BNA/LNAやフェノキサジン塩基を上回る優れた二重鎖形成能を有することが分かった。(4) BNAPオリゴヌクレオチドのCDスペクトル・熱力学的パラメータによる解析:BNAPを組込んだ各種配列を有するオリゴヌクレオチド用いて評価したところ、BNAPは2',4'-BNA/LNAとフェノキサジン塩基の特徴を併せ持つことが見出された。 以上、本年度は当初の実施計画をおおむね満足する成果が得られた。次年度では本年度の成果に基づき、更なる二重鎖形成能向上を目指した新たなBNAP誘導体の開発と、細胞を用いた遺伝子発現抑制効果を検討する。
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