研究課題
本研究の目的は、新規な生理活性ポリアミンの開発である。ポリアミンは、あらゆる生物に含まれるポリカチオンで、柔軟な化学構造と多彩な生理活性をもつ分子である。本研究では、ポリアミン骨格に様々な構造制約を導入して、活性および選択性の向上をめざしている。具体的には、直鎖型・部分構造制約型・分岐型・環状型の4種に分類される種々のポリアミンを設計・合成している。構造制約をもつポリアミンの報告例は少ないが、我々はペプチド化学を利用した固相合成が適していることを明らかにしている。本合成法は簡便であり、前述した4種のポリアミン類の合成が可能である。だが、分岐型及び環状型ポリアミンの合成は十分効率的ではなく、改善する必要がある。そこで本研究では、ポリアミン固相合成法の問題点の解消および生理活性の検討を進める。前年度までに、直鎖型・部分構造制約型・分岐型・環状型のポリアミン類を合成し、種々の生理活性を検討した。その結果、リシン特異的脱メチル化酵素LSD1を中程度の活性で阻害するポリアミンを見出した。このポリアミンの「活性に重要な部分構造の同定」及び「活性の向上」をめざし、類縁化合物の合成を進めた。活性をもつポリアミンは複数の不斉中心を有していたため、そのエナンチオマー及びジアステレオマー8種類を設計・合成し、LSD1阻害活性を検討した。合成した光学活性なポリアミン類の活性には、最大で3倍程度の差が見られ、より強い阻害活性をもつポリアミンの開発に成功した。
2: おおむね順調に進展している
本研究の目的は、特徴的なポリアミン固相合成法の改良とその合成法を用いた新規生理活性ポリアミン類の開発である。現在までに、合成したポリアミンの生理活性を種々検討する中で、リシン特異的脱メチル化酵素LSD1阻害活性を有するポリアミンを見出した。さらに、その類縁体を合成することで、より強い阻害活性をもつポリアミンを開発した。活性に顕著な差は見られなかったものの、さらに構造展開することで、より強い阻害活性をもつポリアミンの開発が期待できる。そのため、生理活性ポリアミンの開発について、順調に進捗していると考えている。現在まで、LSD1阻害ポリアミンの開発研究を中心に進めている。生理活性をもつポリアミンが、従来の固相合成法で効率良く合成できるタイプであったため、固相合成法の改良については多少の遅れがみられる。だが、固相合成法の改良についても、相応に進展していると考えている。上記の現状を総括し、本研究の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した。
来年度も引き続き、生理活性をもつポリアミン開発を中心に進める予定である。最も強い活性を示したポリアミンにさらに修飾を加え、より強い阻害活性を持つ分子を創製する。この構造展開には合成法の改良が必要になると考えられるため、進捗が遅れている合成法の改良も合わせて進めていく予定である。
物品費及び旅費の支出額が、当初予定よりも少なくなったため
次年度使用額は、平成29年度の物品費及び旅費に充当する。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 謝辞記載あり 1件)
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