本研究課題は、医薬品の立体構造と薬理活性との相関性を明らかにすることを目的として遂行するものである。これまで中心不斉を持つ医薬品については構造活性相関研究など、精査されてきているが、動的なキラリティである軸不斉を潜在する医薬品について立体構造と薬理活性の関連性を明確にした例は非常に少ない。私達は、軸不斉がもたらす三次元的な構造を明確な形で表出させ、これを解析して薬理活性向上のための情報として活用した新たな分子設計及び合成を行い、新たな医薬品候補化合物を創出することをめざしている。 これまではアミド構造のもたらす軸不斉を中心に検討してきたが、本研究課題では特にアミド構造に加えてウレア構造について着目している。ウレア構造とアミド構造の類似点や相違点を明らかにした例はなく、医薬化学の観点から重要と考える。昨年度までに抗てんかん薬などとして汎用されるカルバマゼピンについてそのウレア構造とアミド構造との相違点をX線結晶解析や温度可変NMRなどを用いて解明した。今年度は同様な検討を4位置換カルバマゼピン誘導体について行い、4位の置換基はウレアのE-Zのコンホメーション制御には有効ではないが、7員環のコンホメーションの変化がもたらすキラリティ(軸不斉)の制御には大いに有効であることを明らかにした。これにより、大変安定な軸不斉異性体をキラルカラムを用いて分離・単離することができた。得られた4位置換体のラセミ体及び単離された各エナンチオマーの薬理活性を検討した結果、4位にクロロ基やメチル基が置換した誘導体はカルバマゼピンよりも高い活性を示すことがわかった。残念ながら、各エナンチオマーについての活性の向上は認められず、軸不斉が活性には寄与していないことが明らかになった。 また、Menkes病治療薬の開発については、ねじれ構造が潜在する可能性を検討中である。
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