研究課題/領域番号 |
15K08032
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
忍足 鉄太 帝京大学, 薬学部, 教授 (00279043)
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研究分担者 |
小佐野 博史 帝京大学, 薬学部, 教授 (40246020)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ポリメトキシフラボン / 後発白内障 / 糖尿病網膜症 / 構造活性相関 / MMP-9 |
研究実績の概要 |
柑橘類の果皮に多く含まれるポリメトキシフラボン類は、抗炎症作用、癌の転移抑制作用、認知障害改善作用などの生理活性を有することで注目されている。こうした多様な活性の分離と増強をはかり、標的部位への選択的な送達を可能にするためには構造活性相関研究が不可欠である。筆者らは、ポリメトキシフラボン類が高齢化や生活習慣病に伴う眼疾患やリウマチ、癌など、罹患者の生活の質を著しく損なう多様な病態に深く関与している酵素であるMMP (matrix metalloproteinase)-9の産生を抑制することに注目し、こうした病態への薬物治療の可能性を念頭に構造活性相関研究を遂行してきた。 しかしながら、高度に酸素官能基化されたA環部分が特異な化学的挙動を示すため、既存の方法論では短工程で多様なB環部分を導入することが困難である。これまでのところ、多段階を要する逐次的な合成法によって各種の類縁体を合成しているが、効率面では問題があり、新規な収束的合成法の開発が必要不可欠である。平成28年度はこうした合成化学上の課題の克服を優先課題とするとともに、ヒトの水晶体上皮細胞や網膜内皮細胞に於いてポリメトキシフラボン類がMMP-9の産生を抑制する分子機構の詳細を明らかにすることを目指して研究を進めてきた。 前者の類縁体合成上の課題は思いのほかにハードルが高く当初の予定に比べて難航しているものの、本質的な問題点を克服するためのヒントは得られたと考えている。他方、後者のMMP-9産生抑制の分子機構についてはポリメトキシフラボン類がERK1/2及びPI3K-Akt経路を介してproMMP-9の産生を抑制している可能性を強く示唆する結果が得られている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
ポリメトキシフラボン類を合成するうえで最大の課題となるのは高度に酸素官能基化されたA環部分と多種多様な置換基を導入したB環部分とを効率よく連結して短工程でフラボン骨格を構築することである。筆者の開発した現行の合成ルートには、ペンタメトキシ安息香酸メチルからA環部分の鍵中間体であるペンタメトキシアセトフェノンを合成する工程の収率が安定していないことと、そもそも逐次的な多段階合成法であるためにさまざまな類縁体を効率的に合成するのには不向きであること、という二つの問題点が潜在している。前者については、ペンタメトキシ安息香酸誘導体のカルボニル基に求核剤が攻撃する際に、ベンゼン環がカルボニル基と直交するような配向をとるため隣接する置換基が反応剤の接近を阻むのが主たる原因と考えられる。この点を考慮して、A環のベンゼン環上の酸素官能基の数を二個減らした2',4',6'-トリアルコキシアセトフェノンを用い、先にフラボン骨格を構築しておき、然る後にA環部分に官能基を導入するという方針を立てて、手始めにケンフェロール類縁体を合成すべく検討した。その結果、A環部分とB環部分を連結してC環の閉環前駆体を得るところまでは問題無く進行したが、つづく脱水反応によるC環閉環の過程で予期せぬ重合反応が進行してしまい、所望の中間体が得られないことが判明した。また、これと並行してA環等価体からメタラサイクルを経由して一挙にフラボン骨格を構築する方策も検討しているが、これまでのところ思わしい成果は得られていない。当初は28年度中にフラボノール類も含めた種々の類縁体の合成を完了してアッセイに供する予定であったが、このような理由で遅滞が生じている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験結果に鑑みて、早い段階でA環部分に酸素官能基を導入しつつも、後にフラボン骨格の4位となる位置のカルボニル基とA環のベンゼン環が共平面をとるような三環性アミド型のA環等価体を設計すれば、B環等価体となる金属アセチリドと反応させて各種の誘導体を収束的に合成するのに好適であると考えた。そこで、既存の合成法により短工程で得られるペンタメトキシ安息香酸塩化物と、ピロリジンを反応させて対応するアミドを合成し、カルボニル基に隣接するメトキシ基を脱メチル化した後にCH挿入反応によって三環性アミド中間体を合成する方法を検討したところ、中程度の収率ではあるが、対応する三環性アミド中間体が得られた。この工程に関しては更なる改善が必要であるが、ピロリジン環をピペリジンやモルホリンなどに替えたアミドも合成して最適化を図る予定である。また、これとは別に、サリチル酸誘導体のカルボン酸ハロゲン化物からアシルケテンを発生させ、エチニルベンゼン誘導体との間で逆電子要求性Diels-Alder反応によってフラボン骨格を一挙に構築する方策についても検討する。 他方、既に合成の完了した誘導体を用いてproMMP-9産生抑制の分子機構についても解明を進めるとともに、後発白内障の薬物治療への応用という観点からはフラボノイドが上皮間葉系移行に及ぼす影響についても精査していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
28年度は思いのほかに研究計画に遅滞を生じたため、比較的に経費のかからない合成研究の占める割合が大きくなり、繰越金が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度は、比較的に高額な試薬類や消耗品(精密ガラス機器や分析及び分離用カラムなど)の使用が見込まれるとともに、場合によっては一部のアッセイを外注する可能性もあり、こうした経費に充当する予定である。
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