本研究では、独自に開発したホスホン酸エステル型化合物がキモトリプシン様セリンプロテアーゼの一つであるトロンビンの活性を非競合的に阻害することに着目し、本化合物のトロンビン結合部位や阻害分子機構の解明を目的とした研究を展開している。 昨年度は構造活性相関を行うのに不足しているデータ部分を補填するためにホスホン酸エステル型化合物の重要骨格であるフタルイミド骨格のイミド窒素上への置換基導入による活性への影響を評価し、フタルイミド部位が収まると予想される酵素結合ポケットにはある程度の空間が広がっていることを示した。そこで本年度はまず、ホスホン酸エステル型化合物が有する末端塩基性部の塩基性と活性との相関について調査した。その結果、これまで導入していたアミノピリジル基をより塩基性が高いグアニジノ基へと変換することで、トロンビンの阻害活性が数百倍向上することを明らかとした。ただし、本変換ではトリプターゼへの阻害活性も向上するため、酵素選択性に関してはやや減弱する結果も同時に得られている。本結果より、トロンビンへの阻害活性を保持したまま酵素選択性を向上させる構造展開を検討中である。また、フタルイミド骨格と末端塩基部をつなぐリンカーの炭素鎖長の検討も行った。その結果、炭素鎖の長さはC4およびC5が適当であり、これよりも短いC3や長いC6の場合には酵素阻害活性がほぼ失活することが明らかとなった。 これらの検討結果をもとに、酵素選択性は高くないもののトロンビンの活性を強力に阻害する化合物を合成し、その阻害様式の検討を行った。その結果、阻害活性は向上したものの、阻害様式が競合型と非競合型の二つが混合していることが分かり、非競合型阻害の分子機構の解明には更なる構造展開が必要であることが分かった。
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