研究課題/領域番号 |
15K08034
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
飯島 洋 日本大学, 薬学部, 教授 (30465281)
|
研究分担者 |
丹羽 典朗 日本大学, 薬学部, 准教授 (20541973)
齋藤 弘明 日本大学, 薬学部, 講師 (30385976)
鈴木 守 大阪大学, たんぱく質研究所, 准教授 (40280507)
小林 弘子 日本大学, 薬学部, 准教授 (50216066)
高宮 知子 日本大学, 薬学部, 助教 (50513917)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | カテコール O- メチル転移酵素 / 賦活化物質 / 生成物阻害 |
研究実績の概要 |
賦活化活性を示すリード化合物と同じ基本骨格(oxabicyclononane;OBCN)を持つ誘導体を合成した。OBCN系化合物はエストラジオール受容体に結合することが知られており、エストラジオールの2位が水産化された2-hydroxyestradiol(2ME)はCOMTの基質になることも知られている。そこで、エストラジオール、エストロンの合成誘導体を日本大学薬学部宮入伸一教授提供を受け、それらの賦活化活性も測定した。残念ながらリードを上回る活性を示す化合物を見出すに至っていない。これらの化合物の中にはCOMTの阻害活性を示すものも一部見出された。 さらに、偶然であるが、OBCN系化合物の中に、COMTの基質になるものが見出された。COMTは第一基質としてSAM(S-adenosylmethionine)を結合し、その近傍にカテコール類が第二基質として結合する。第一基質結合部位にSAMから生成したSAH(S-adenosylhomocystein)が居残ることがCOMTのSAHによる生成物阻害の本質であるが、賦活化物質はSAHの親和性を低下させることでCOMTの活性を高める。従って賦活化物質は第二基質結合部位を利用している可能性が高い。 平成28年度はラットCOMTの発現系の構築を行い、ラットCOMTを精製した。ヒトCOMTと類似した性質を示し、生成は容易に行えた。ヒトCOMTを用いたスクリーニングで見出された賦活化物質はラット酵素でも賦活化活性を示した。このことからラットCOMTとの複合体の結晶構造解析を開始した。ラットCOMTはヒトCOMTに比べてアポ体の結晶を取得しやすかったが、残念ながら化合物との複合体の構造解析には至っていない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
外部研究者の協力により、賦活化物質は第二基質をノルアドレナリン以外の物質に変えても賦活化を行うことが判明した。賦活化物質はCOMT/SAH複合体の第二基質部位に結合すると考えている。賦活化物質eがCOMT/SAH複合体へ親和性を示し、e/COMT/SAH複合体を形成するという仮説をたて、King-Altmanの方法による反応速度論式を算出することを試みたが、計算が複雑で解くことができなかった。そこで、シミュレーションにより、賦活化物質がSAHの見かけの解離定数を低下させるかを検討したところ、同じメカニズムでも、eがCOMT/SHAに対する親和性よりもCOMTに対する親和性が高い場合は阻害剤になることも示された。このことは賦活化物質の小さな構造変化により、阻害剤が生じる事実を説明するものである。理論的研究については検討をつづけ、実験的に裏付けることを目指したい。 平成28年度は、類似化合物が基質として作用することも見出すことができ、生成物阻害のメカニズムに関しては進捗を得たと言える。しかしながら未だに活性が強い化合物の取得には至っていない。 平成29年度は本研究グループにおいてOBCN系化合物の合成方法がほぼ完成したので、さらに分子量を大きくするデザインでCOMTへの親和性を高めたいと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
ヒトCOMTで難航した結晶化はラットCOMTで順調に取得できたものの、賦活化物質との複合体の回析実験には成功していない。その原因として、ビームの照射により結晶が崩壊するためである。対策としては、結晶条件における有機溶媒の比率を下げ、かつ、化合物の濃度をあげる工夫が必要である。COMTの結晶化剤の一部はPEG3350である。PEG3350は固体であるが、ポリエーテルであるので、化合物を溶解する溶媒として利用できると考えている。PEG3350よりも低分子領であるが液体であるPEG450には化合物は50mM程度まで溶解することが可能なことを確認した。PEG3350に化合物を混和し、そこへ水を加えることで化合物が溶解した50%溶液を作り、これを結晶化実験に使用する予定である。また、平成28年度の成果から化合物は第二基質部位に結合する可能性があることを鑑み、COMT/SAH/eという複合体を目指すことも試みる。この場合、SAHの水への溶解度が低いことが障害になる可能性がある。 化合物に関しては、分子量を大きくする誘導体の合成を継続する。また、化合物ライブラリの再評価の結果、decalin系化合物にも活性が期待できることがわかった。Decalin系化合物には交感神経系疾患に絡んだ生理作用が報告されている例もあり、購入により、誘導体を入手し、評価する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平衡透析実験を予定していたが、現段階では論理計算による成果の方がインパクトが強く、効果的であると判断し、これを優先した。論理計算では消耗品を使用しないため、費用が抑えられた。
|
次年度使用額の使用計画 |
ラット酵素の結晶化と化合物のスクリーニングに関わる費用として使用する予定である。この他、リザーバーや沈殿剤などの購入が生じる見込みである。未だに初期化合物を超える活性をもつ化合物の取得に至っていないため平成29年度は化合物の合成だけでなく、購入を強化し、vivo活性を期待できる化合物の発見に力点を入れる。
|