私は抗がん剤としてのヒストン脱アセチル化酵素阻害剤(HDI)候補化合物の創製と探索を行うと同時に、HDIのエピジェネティックな遺伝子発現制御効果を利用した機能分子の創製に取り組んできた。本研究では、本剤の弱点である血中安定性の改善とEPR効果の併授を期待した、高分子キャリア-HDI複合体を合成し、その効果を評価すること、また、その発展型として、HDIのがん細胞特異的な遺伝子発現増強効果を加味した、高分子遺伝子キャリア-HDI複合体による、がんの遺伝子治療との相乗効果の可能性を探ることを目的としている。 平成28年度までに更なる改良を施した高分子キャリアHDI複合体については、規格化を容易にするために、シンプルな分子デザインを基調としており、大量合成を志向した合成法の改良、精密な構造確認についても試行錯誤の末に達成することができた。しかしながら、生成されたミセル製剤の物性面の検証や細胞レベルでの機能評価までは至っていなかった。そこで、平成29年度は、これらの課題を重点とした研究を進めた。まずは、DNA複合体ミセルの物性について、動的光散乱(DLS)法による粒子径の測定と表面電荷(ゼータ電位)の測定を行い、その最適化条件を探った。DNAミセル製剤においては、製剤分子の窒素原子数NとDNAのリン原子数Pとの比(N/P比)がその製剤における遺伝子導入性能を左右することが知られており、当研究においてもN/P比をパラメータとする、検証評価を行った。その結果、ミセル製剤分子とDNAの混合比としての至適条件を決定した。この条件におけるミセルのゼータ電位はほぼ0となり、遺伝子導入性能も最も高かった。
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