研究実績の概要 |
腸管出血性大腸菌感染症は、本邦においても毎年一定の患者を出しており、今日に至っても減少の傾向を示していない。腸管出血性大腸菌の感染は下痢や出血性大腸炎を誘発するのみならず、感染者の3-10%において溶血性尿毒素症症候群や脳症といった致死性の合併症を引き起こす。これらの症状を誘発する主要病原因子の一つは、腸管出血性大腸菌の産生する志賀毒素であると考えられているが、未だ有効な治療薬がなく、志賀毒素の毒性を中和できる治療薬の開発が急務である。我々は様々な培養細胞株に志賀毒素を作用させることによって、志賀毒素はヒト急性単球性白血病細胞株THP1に速やかに、かつ効率的にアポトーシスを誘導することを見出した。そこで、THP1細胞をモデル細胞株として、志賀毒素によるアポトーシス誘導機構を詳細に調べたところ、主に以下の知見を得た(FEBS Open Bio, 5, 605, 2015)。 1. 志賀毒素によるアポトーシスの誘導には、細胞表面上のGb3発現が必須である。2. 志賀毒素によってcaspase 9がinitiator caspaseとして活性化し、apoptosomeが形成される。3. 志賀毒素によってプロテアソーム活性依存的に、抗アポトーシスタンパク質の分解が誘導される。4. 志賀毒素によるcaspaseの活性化にはプロテアソーム活性が要求される。5. プロテアソームを阻害すると、志賀毒素によるin vitroにおける細胞死、およびin vivoにおけるマウスに対する志賀毒素の致死活性が抑制される。 これらの知見は、プロテアソーム阻害薬が腸管出血性大腸菌感染時における、致死性の合併症に対する治療薬として利用できる可能性を示唆するものと考えられる。
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