研究実績の概要 |
腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は下痢や出血性大腸炎を誘発するのみならず、溶血性尿毒素症症候群や脳症といった致死性の合併症を引き起こす。これらの症状の主要病因因子はEHECの産生する志賀毒素であると考えられている。本邦では現在でも、年間3,000人以上感染し、今日に至っても減少の傾向を示しておらず、志賀毒素の中和薬の開発が急務となっている。 志賀毒素はAB5型のホロトキシンであり、5量体のBサブユニットが標的細胞表面上の中性糖脂質Gb3(CD77)に結合し、細胞内へ侵入する。その後、志賀毒素は逆行輸送経路により初期エンドソーム、ゴルジ体を介して小胞体へと輸送される。一方、Aサブユニットは小胞体から細胞質へ放出され、リボソームの60Sサブユニットを失活させてタンパク質合成を阻害し毒性を発現する。 志賀毒素は種々のGb3陽性の細胞株に細胞死を誘導することが知られているが、我々はヒト急性単球性白血病細胞株THP1を用いて志賀毒素によるプロテアソーム活性依存的なアポトーシス誘導機構を詳細に解析した(FEBS Open Bio 5, 605, 2015)。また、ADP-ribosylation factor 1 (Arf1)の活性を抑制し、ゴルジシステムを含む、細胞内小胞輸送を阻害する低分子化合物M-COPAが、志賀毒素の細胞死誘導活性を抑制することを見出した(Genes Cells 21, 901, 2016)。 当該年度では、志賀毒素感受性のTHP1細胞から独自に単離した志賀毒素耐性亜細胞株の耐性化獲得機構を解析した結果、この耐性亜株ではCD77の発現が極めて少なくなっていることを明らかにした。また、この発現低下はCD77の整合性を司る酵素であるCD77 synthaseのmRNAの発現低下によるものであることが判明し、現在これらの結果の論文を投稿中である。
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