昨年度までの培養細胞系を用いた研究により、1)環境汚染重金属であるカドミウムに対して活性イオウ分子は毒性防御に働いていること、2)細胞はカドミウムに対して活性イオウ分子の産生に関わる酵素群の誘導に働く応答性を有していること、3)外因性のポリスルフィドの処理によりカドミウムをイオウ付加体に不活性化して化学防御できることを明らかにした。最終年度は、カドミウムに対する活性イオウ分子の産生に関わる酵素の誘導における小胞体ストレス応答系の関与を解析した。加えて、カドミウムの毒性に対する活性イオウ分子の防御的な役割を個体レベルでも検証した。カドミウムに曝露したマウス初代肝細胞において、活性イオウ分子の産生酵素の1つであるcystathionine γ-lyase (CSE)の遺伝子発現の誘導が観察されたが、小胞体ストレス応答性の転写因子ATF4の活性化は観察されなかった。また、野生型マウスとCSE欠損マウスを用いて急性肝毒性を指標にカドミウムに対する感受性を比較したところ、CSE欠損マウスは野生型マウスと比較して高い感受性を示した。更に、ポリスルフィドのモデル化合物であるNa2S4の処理により、カドミウムの急性肝毒性は軽減された。MS解析により、Na2S4との反応により生成されたカドミウムのイオウ付加体として、硫化カドミウム(CdS)とチオ硫酸カドミウム(CdS2O3)を同定したが、前者は安定な付加体であるのに対して後者は不安定な付加体であるために、CdSが少なくともCdの不活性化・解毒に寄与することが示唆された。以上より、細胞レベルおよび個体レベルにおいて活性イオウ分子はカドミウムの毒性防御に重要な役割を果たしていることを明らかにした。
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