研究課題
タンチョウの生息環境からの化学物質曝露は、卵殻薄化や孵化率の低下を引き起こす可能性があり、化学物質の曝露状況の把握は保護活動を行う上で重要である。本研究では、1989年より25年間にわたり釧路市動物園にて保存されているタンチョウのへい死個体の臓器・組織(胸筋、肺、肝臓等)に蓄積されている残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants; POPs)や多環芳香族炭化水素類(Polycyclic Aromatic Hydrocarbons; PAHs)を定量し、曝露量や毒性発現の可能性を推定することを目的とする。また、曝露量の高い物質について生息環境から得た試料(大気、土壌、水、餌)を分析して生息地の汚染状況、寄与度の大きい曝露源(地元発生源または長距離輸送)を明らかにする。平成27年度は、列車衝突や車両衝突、電線衝突など突発的な原因によってへい死したタンチョウの成鳥野生個体の組織片を経年的に抽出し、POPsの組織中濃度を測定した。POPsが最も蓄積・濃縮しやすい脂肪組織(大腿筋から抽出して得られる脂肪試料)について試験的に定量し、すべての試料からヘキサクロロベンゼン(HCB)、ジクロロジフェニルトリクロロエタンとその代謝物(DDT類)、クロルデン類、ヘキサクロロシクロヘキサン類、PCB類、ポリブロモジフェニルエーテル(PBDE)類を同定・定量することに成功した。このことから、北海道東部に生息するタンチョウがPOPsに複合汚染されていることが明らかになった。また、胆汁に排泄されると予測さるPAH代謝物の分析を行うため、分析法の開発を実施し、高感度検出を可能にする誘導体化法を用いたLC-MS/MSによる分析法を開発した。
2: おおむね順調に進展している
タンチョウの大腿筋試料の脂肪に含まれるPOPsを定量することに成功し、すべての個体から多数のPOPsが検出された。タンチョウが複合的なPOPs汚染に曝されていることが明確になり、環境中の曝露源の解析へと研究をつなげることができる。組織試料からPOPsの定量を実施できたことは当初の計画どおりに順調に進展している。また、PAH代謝物の高感度LC-MS/MS分析を行えるようになり、胆汁試料の適切な前処理法が完成すれば、次年度以降に実試料についてのPAH代謝物の定量を着実に行うことができる。環境からのPAH類の曝露に関する調査について、その準備段階としてPAH類の1種であるPAHキノン類の環境試料の分析法の開発にも成功している。
平成27年度に大腿筋試料の脂肪からPOPsを定量することに成功したことから、28年度も継続してPOPsの分析を実施し、50羽程度のデータを得る。定量結果について、各個体の高濃度曝露の有無、化合物間の関連、体長等の個体情報や生息地の汚染状況との関係、餌のパターン、人間の生活圏との関わりによる曝露量の増大について考察する。また、胆汁中PAH代謝物の分析について、胆汁の前処理を完成させ、POPsを測定した個体の胆汁の定量を実施する。PAH曝露に関しても、POPsと同様に各個体情報をの関係性を考察する。生体試料の解析を終了した時点で、POPs及びPAHsの曝露源を推定し、次年度に調査すべき対象の生息環境(土壌や餌等)を決定する。
分析に使用するタンチョウの組織試料は、列車衝突や車両衝突、電線衝突など突発的な原因によってへい死して釧路市動物園に回収されたタンチョウの成鳥野生個体を用いるため、年度によって死亡する個体数が異なる。平成27年度は、死亡個体数が少なく、動物園の研究協力者が試料用の組織等を採取することで対応可能であったため、試料採取のために金沢から釧路に派遣する人員に関わる旅費が予定より少なかった。
生体試料の解析を終了し、POPs及びPAHsの曝露源を推定した時点で、次年度に調査すべき対象の生息環境における環境試料(土壌や餌等)を予備的に釧路湿原内で採取するために派遣する人員の旅費として使用する。
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (3件) 備考 (1件)
Environ. Sci. Pollut. Res.
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